Appleと音楽出版社の金額面での隔たりは大きくないが、こうしたライセンスをめぐる交渉は歴史的に見て、最高の条件の下であっても長引くことが多い。そして今回は、最高の条件にあるとは言えない。
クラウドサービスはまだ歴史が浅く、そのライセンス方法に関する前例はない。CDやダウンロードに関する交渉であれば簡単だっただろう。米国議会は、メカニカルライセンス料の法定率を1曲当たり9.1%と定めている。楽曲をダウンロード形式やCDで販売する小売業者はすべて、その率のライセンス料を支払う(ただし米著作権使用料委員会は、2012年中にこの法定率を見直す予定だ)。しかし、クラウドサービスはこのライセンス方式の対象になっていない。音楽出版社とアップルは、クラウドサービスのための契約条件を、ゼロから考え出さなければならない。
興味深いのは、音源に対する権利には法定率という制約がないことだ。つまり、レコード会社はライセンス料を交渉で自由に決めて、懐に入れてしまえるということになる。
音楽業界の情報筋によると、音楽出版社とレコード会社の間には多少の緊張関係があるという。出版社側の情報筋は、クラウドライセンスの権利獲得のためにAppleが用意した金額のほとんどは、レコード会社に吸い上げられてしまったと述べている。こうしたレコード会社と音楽出版社の対立は珍しいものではない。
レコード会社側の情報筋は、Appleにライセンスを与えたレコード会社は、自社の楽曲の価値についてのみ交渉したのであり、Appleが音楽出版社の提示額を払おうとしなければ、音楽出版社はライセンスを与える必要はないとしている。同じ情報筋は、これは交渉戦術の1つであり、Appleはレコード会社と音楽出版社を争わせようとしているのだと指摘する。
こうしたことが障害になる可能性はあるものの、筆者はまだ、Appleが6月にクラウド音楽サービスを発表すると期待している。レコード会社は、クラウドサービスのためのライセンスを取得しないことを選んだAmazonとGoogleを、Appleが一歩リードすることを望んでいる。確かにレコード会社は、デジタル音楽の分野でAppleの「iTunes」の対抗馬となるサービスの登場を期待しているが、レコード会社が望んでいるのは自分たちのやり方に従うサービスだ。
レコード会社と音楽出版社は、Appleがクラウド音楽サービスで成功を収めることを期待しており、消費者へのクラウドの売り込みを手助けしている。しかし、消費者の多くはまだ、音楽へのユビキタスアクセスについて知らないか、あまり興味を持っていない可能性がある。それがAppleにとってのもう1つの脅威だ。クラウド音楽サービスは、Appleのサービスを含め、すべて有料となる可能性が高いが、消費者が進んで支払おうとするかはまだ分からない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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