ここで、Jasonという男性の話をしたい。
大規模なヘルスケア組織で最近実施されたプロジェクトにおいて、われわれは患者の退院にかかわる現状を把握し、そのプロセスを最適化する道を模索していた。病院にとっては退院事務を適切に処理することで、限られたリソースをより効率的に利用できるようになるため、こういった最適化が非常に重要となるのである。
このプロジェクトで筆者と一緒に仕事をしたのが、経営学修士号の取得を目指していたJasonという学生だった。20代半ばの彼は、教養があり、礼儀正しく、年齢なりに生意気な面も持ち合わせていた。彼はヘルスケアマネジメントの分野での研究を行っていたのだが、大学卒業後のキャリアパスをどうするかについてはまだ決めかねているようだった。
プロセスの分析と設計について詳しい人であれば、図を描いたり、統計分析を行ったりすることから始めたくなる気持ちが分かるかもしれない。退院というプロセスの分析はプロセスエンジニアにとって、スイムレーンダイアグラムやバリューマップを利用できる最適な題材であるものの、筆者はJasonに大局を見失ってほしくないと考えていた。
このため彼に対して、病院に出向き、退院というプロセスを自分の目で観察するよう命じたのだった。
3時間後、沈痛な面持ちで病院から戻ってきた彼は、謙虚さをにじませていた。そして、その病院において、ガンと診断された患者の家族に対して退院手続きが説明されるさまを2度も目にすることになったと静かに語った。こういった患者は他の医療施設で治療を受けることになる。彼は、患者やその家族の目に浮かんだ、信じられないという思いや涙、答えのない疑問、大きな不安感を目の当たりにしたのだった。
Jasonにとっては、人間味のないダイアグラムやタイミングチャートを用いた実習になるはずの作業が、深い意味を持つようになったというわけだ。そして彼は、ある種の思いやりの感情と、最高の成果を残すという責任感にかられて、このプロジェクトに対して粘り強く取り組んだのである。
なお、Jasonは卒業後の進路について、もはや悩んではいない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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