瞬足に見るもの作りの新しい軸 - (page 2)

 このような環境の下、瞬足を実際に履いて運動会で走り、効果を体験したユーザーがその情報を伝播させ始めます。ユーザーのニーズを踏まえたもの作りがベースにあり、さらに運動会での成功による感動体験が情報の伝達を促進しました。

 たとえば、皆さんもブログ検索で、「瞬足」を入力してみてください。瞬足に対する書き込みは非常に多く存在することがおわかりになるでしょう。感動体験が、ユーザー内での商品認知度を一気に上げ、情報伝播へと突き動かしました。

 その状況の一端は、アキレスに寄せられたユーザーからの感謝の手紙からもうかがえます。メーカーに感謝の手紙を出している方々は、きっと積極的に普及を手伝ってくれているのではないでしょうか。

 そのような口コミを認識したメーカー側では、ユーザーのニーズをさらに積極的に汲み取り、商品開発へとフィードバックさせました。その結果、ブランドロイヤリティが格段に向上したのではないでしょうか。

 瞬足は、2005年度の時点で、すでに年間158万足を販売するまで成長しました。ジュニアスポーツシューズ市場では100万足売れる商品はなかなかできないと聞きます。この時点で、すでに大成功を収めたといえるでしょう。

 そして2005年3月、テレビCMを開始しました。競合商品も増えていくなかで、口コミとテレビCMの相乗効果で認知の促進とイメージの向上がなされ、その地位は揺るぎないものとして確立していきます。そして、最終的に2008年度では、544万足を販売するまでに至りました。

瞬足の成功が意味するものは何か?

 このような瞬足の成功の系譜を振り返ってみると、いくつかの成功の要因が見えてきます。まず第1に、ユーザーの真のニーズに立脚した商品開発を行ったということが挙げられます。さらに、ユーザーの感動経験・情報発信を加速するためにユーザーの声のフィードバックを積極的に行ったことが挙げられます。これらが、時代背景(少子化、運動界の祝祭化など)と相まって、成功に導いたのではないかと思います。

 第1のポイントについていえば、機能やデザインといったあらゆる側面で、それまでの商品は過去の経験に依存しすぎていました。製品開発競争の結果、最終的にユーザーのニーズにかなりかけ離れた製品群が市場を席巻していたのです。このような、いわば競争の軸が真にニーズに合っているかどうかについては、どの時点でも立ち戻って考える必要があるなと思います。

 第2のポイントについていえば、多くの児童が小学生である6年のあいだ、顧客でありつづけることを考えるならば、ロイヤリティの向上が大きな意味を持つということです。児童向けのマーケティングでは、玩具でみられるように「一時的にロイヤリティを極大化することで収益最大化を図る」という事例が多くみられます。しかし、瞬足における「感動の循環」というメカニズムからは、長期的な関係構築も重要であることがわかります。

 今回の話題はシューズに関するものでしたが、そのポイントは、他の商品やサービスなどにも適用できる汎用性を内包しているのでしょう。このような成功を収めた後で、現在、瞬足はライセンシングビジネスにまで進出しています。ライセンシングビジネスからどのような結果が得られるのか、注目していきたいと思います。

七丈直弘 Naohiro Shichijo

東京大学大学院情報学環准教授。1970年静岡生まれ。博士(工学)。ネットワーク解析など数理的手法を用いて、知識の生産と伝播によるイノベーションを研究。コンテンツビジネスにおける能力形成のモデル化や企業の戦略分析を行うとともに、プロデューサ育成も行っている。特にアニメ・動画には造詣が深く、また、UNIX技術本の翻訳なども手がけている。2008年度はキャラクタービジネス研究で注目を集めた。

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