ファッション誌に見られる「逆」潮流(続) - (page 2)

イメージ広告の衰退

 読者モデルやコラボ企画の隆盛からわかるように、ファッション雑誌が媒介者となることで「ユーザーからのボトムアップ」が盛り上がってきました。これらと同様な現象として、従来のトップダウン型の情報伝達手法が、現在のユーザーに通用しなくなりつつある例も出てきました。例えば、Popteenのようなユーザーの嗜好が強く反映される雑誌の場合、従来の単純なイメージ広告がかなり減少しているというのです。

 イメージ広告については、商品よりもブランド名やそのイメージを訴求する、高級ブランドが新聞やハイファッション誌で掲載しているものを想像いただくとわかりやすいかと思います。

 では、どういう広告が増えつつあるかというと、記事と見間違うかのような、でも、よくよく見てみると下の隅あたりに広告主の会社名が載っているという広告です。同誌によると、イメージ広告では、読者が素通りしてしまうケースが多いので、こういう手法が「読者に違和感なく注目してもらう」には有効だということです。

 違和感ないというのは、読者モデルやストリートスナップ写真を満載した誌面内容と一体化しているということですから、これは「デザイナー⇒アパレル企業⇒雑誌⇒消費者」というトップダウン型の情報伝達構造が機能しなくなりつつある例ともいえるでしょう。

まとめ

 これまで2回にわたって、ファッション誌を切り口に、情報伝播における従来のトップダウン型と、比較的新しい「逆」潮流であるボトムアップ型の現状をみてきましたが、いかがでしたでしょうか。

 ファッション業界の方からすると、当り前のことだったかもしれません。もし、業界の方のみならず、一般読者の方からも「当たり前」と思っていただいたのであれば、非常にうれしい話です。というのは、このような「逆」潮流がコンテンツ分野全般で起きつつあることを示していくのが本コラムの狙いであり、最初にファッションを取り上げたのは、皮膚感覚としてそれが最もわかりやすいと思ったからなのです。

 また、「これはPopteen誌だけの特殊な例ではないか?」と主張する方もいらっしゃるかもしれません。

 個人的には、この流れは強弱の差こそあれファッション誌全体に共通する傾向と感じていますが、仮に特殊例であったとしても、同誌がファッションに興味を持ち始める10代後半〜という世代を読者にしていることは重要だと思います。この傾向は、彼女たちの今後の成長に伴い、上の世代にも普及していく公算が高いでしょう。

 最後となりますが、石原さんにはあれだけ喋っていただいたのに、一部の例しか取り上げられず申し訳ありません。もっと多くの例を取り上げれば説得力も増したと思いますが、紙面にも限りがありますので。読者の方々にも、ご容赦いただければ幸いです。

七丈直弘 Naohiro Shichijo

東京大学大学院情報学環准教授。1970年静岡生まれ。博士(工学)。ネットワーク解析など数理的手法を用いて、知識の生産と伝播によるイノベーションを研究。コンテンツビジネスにおける能力形成のモデル化や企業の戦略分析を行うとともに、プロデューサ育成も行っている。特にアニメ・動画には造詣が深く、また、UNIX技術本の翻訳なども手がけている。2008年度はキャラクタービジネス研究で注目を集めた。

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