ベンチャーに価値ある市場となり得るか--東証が「TOKYO AIM」を設立する意図 - (page 2)

 東証がロンドン証券取引所と組んで新市場を設立した狙いには、東証が進める世界戦略がある。ロンドン証券取引所のAIMは、上場企業の5分の4をイギリス以外の企業が占めている。東証は本家と同様に国外企業、特にアジア企業の誘致を進める考え。国際化の一環として、英語での情報開示を可能とするほか、国際会計基準や米国会計基準での決算も可能としている。

 ただ、この国際化の推進は、東証の新興企業向け市場「マザーズ」や大阪証券取引所の「ヘラクレス」と同様の戦略でありながら、思うような成果を上げられていないというのが現状だ。マザーズに上場していた中国企業のアジア・メディア・カンパニー・リミテッドが財務諸表の問題から2008年9月に上場廃止となっているほか、ヘラクレスでは中国のオンラインゲーム会社が寸前で上場を取りやめる騒動もあった。東証はアジアのベンチャー企業に対してTOKYO AIMへの上場のメリットを、実績を示してアピールしていく必要がありそうだ。

 もう1つのポイントは、審査にある。通常の新規上場銘柄は、主幹事証券のサポートのもと、監査法人が決算書の適格性を審査し、証券取引所の上場審査部が最終的なチェックを行う。現状よりも将来性が重視される新興企業にとって、この審査面は非常に重要であり、最大のネックでもある。審査を厳しくすれば資金調達を求める企業の将来性を摘む結果となる可能性があり、逆に緩めると問題企業の上場で投資家を傷付け、市場自体の信頼を失うこととなる。これまで日本の新興市場は後者が問題視されてきた。

 TOKYO AIMでは本家と同様に指定アドバイザー制度を導入する。指定アドバイザーは、企業の上場適格性を評価するとともに、上場までの過程で助言や指導を行う。上場企業は上場後も指定アドバイザーとの契約を維持することが義務付けられており、指定アドバイザーは上場した会社が市場のルールなどについて指導する存在だ。

 日本の新興市場ではこの指定アドバイザーの役割を大手証券会社が務めてきた。ロンドンなどでは専門業者もあるが、TOKYO AIMではこれまで同様に証券会社が指定アドバイザーに就く可能性が高い。欧米に比べて主幹事証券の責任が問われにくい風土の日本で、「アドバイザー任せ」とも取れるこの制度が根付くかどうかは、現時点では判断しづらい。

 いずれにしても、TOKYO AIMが市場として機能していくかどうかは、5月にも登場するとみられる第1号上場銘柄次第と言えそうだ。ベンチャー企業にとって資金調達の場として特段の魅力があるとは言い切れず、「様子を見たい」というのが本音だろう。

 日本証券業協会が運営するグリーンシートやジャスダック証券取引所が2007年に設立した「NEO」、そしてブームに乗って乱立した地方新興市場。ベンチャー企業の資金調達の場として、リスクマネーの受け皿としてこれまで行われてきた取り組みは、いずれも成功しているとは言いづらい状況にある。TOKYO AIM自体が、ベンチャー企業や指定アドバイザー、そして投資家への魅力をアピールできなければ、これまでの新市場と同様、大きな理想だけを掲げて企画倒れとなってしまう可能性もある。

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