McClure氏は、Web 2.0時代のITベンチャーは不況にも強いと語る。なぜなら「初期投資が少なく」、「ブロードバンド接続の帯域も利用者も相変わらず増え続けており」、「オンライン広告やEコマースも、ペースは落ちたがまだ増え続けているから」だという。またWeb 2.0系のサービスでは、利用動向の情報をリアルタイムで獲得して、それを即座に、サービスの質向上や経営判断に活かせるという。
ウェブのサービスはユーザーの数が多ければいいというものではない。いくらユーザー数が多くても、登録だけでサービスを使っていないユーザーばかりでは意味がない。そこで重要になってくるのがサービスの評価方法だ。McClure氏が唱えるスタートップ企業によるウェブのサービスの評価方法は4種類あり、それぞれが大事だと言う。
1つは質的評価。これはユーザビリティー調査やセッションモニタリングなど少人数のユーザーの動向を見て、問題を発見し、解決する方法だ。
2つ目は量的評価。これはトラフィックの測定やユーザーのどれくらいが特定のアクションをしてくれたかなどの調査だ。
3つ目は比較評価。これは例えばウェブページのデザインなどの改善に役立つ調査方法で、例えば2種類のインターフェースを用意しておいて、どちらの方がいい結果が得られるかを比較するという方法だ(A/Bテスト)。
4つ目は競合を通しての評価。他の同種の(あるいは似ている)サービスを調査し、特定キーワードで検索した時、どちらが上位に来るかや、どのようなユーザーをとらえているかを調査することを指す。
McClure氏が、こうしたさまざまな評価方法を盛り込んで描いたIT系ベンチャーの成功評価モデルは(「ヤー!」という海賊のかけ声になぞらえて)「AARRR!」と呼ばれている。
もっとも、AARRRの5つのうち、どこに重点を置くかや、どの程度の数を獲得できれば成功、あるいはどの頻度でユーザーが再訪問すれば成功であるかは、サービスの質によってもビジネスモデルによっても異なってくる。
例えば今日のIT系サービスの主なビジネスモデルは、「多くのユーザーの獲得」に主眼を置いたAcquisition、Referral重視のものもあれば、「ユーザーの行動を変える」ことに主眼を置いたActivation、Retention重視型のものも、「収益第一」のRevenue重視型のものもあり、それぞれで評価の数値は大きく異なってくる。
では、どのように評価すればいいかというと、まずは1枚の紙にビジネスモデル(顧客セグメントや望まれているアクション/振る舞い)などをまとめること、次にそれを評価する有効な指標(どのような計測可能なアクションがあるのか)を明確にする。そして試験的なマーケティングチャネルを使ってテストをする。
重要なのは、「テストした結果を反映してサービスを改善する」というサイクルを早いペースで行い、何度も繰り返すこと、そして、正しい方向に改善できるようにA/Bテストをうまく活用することだという。
「一度にAARRR!のすべてを同時に改善することはできないので、1つずつ着実によくしていくことが大事だ」(McClure氏)
一方、Web 2.0系サービスにとって効果的なマーケティングを指南するのがSean Ellis氏だ。Ellis氏は「可能性を最大にするには、次の3つをこの順番でやる必要がある」という。
1のDiscoveryのプロセスでは、ターゲットについての仮説が現実とズレていないかを確認するため、できるだけ頻繁にユーザーに感想を聞いたり、アンケート調査を行なう。
2の改善の繰り返しでは、計測可能な指標に着目。例えばどのようなサイトからユーザーが来ているかや、1人のユーザーが何人くらいの友人を誘ってくれるかはAcquisitionの指標として使える。
訪問者がサービスに登録する割合や、試験利用の登録の割合、試験利用から本利用への切り替えの割合、顧客1人当たりの収益や処理の量、月間での購読者数といった量的測定といった指標も有益だ。
これらの指標を元に、訪問者の数やサービスの利用の頻度を増やす方向、そして訪問者がサービスを実際に試す率などを増やしていく方向でサービスの改善を行う。
改善が進めば、サービスの使い勝手が向上することで魅力が増すだけでなく、ユーザーが使おうと思って止めてしまう原因が減ることで、これから実施するマーケティングプログラムがより効果を発揮できる。
ここでいよいよ3番目のステップである成長に向けてのマーケティングの展開となる。ここで、必ずしもお金をかけることだけがマーケティングではないとEllis氏は強調する。
最初により利用者の獲得を広げるため、サービスのSEO(Search Engine Optimization)を改善し、自分の会社がその問題への取り組みにどれだけ熱心であるかをブログなどを使って発信していくことが大事なのだ。
また、サービスにソーシャルメディア的な側面があれば招待状を使ってユーザーのエンゲージメントを高めるといったことも有効だと言う(ただし、A/Bテストを使って、招待のプロセスに問題がないかは試していく必要がある)。
これとは別にサービスの情報などを、他のブログなどに埋め込めるようにウィジェット(ブログパーツ)などを提供するのも有効だという。
これらの方法だけで、満足のいくユーザー増加が見込めない場合には、最後の手段としてお金をかけた成長戦略へとステップを移す。
しかし、この場合もやたらと予算をかければいいというものではない。まずは1万ドル程度の予算を確保し、これを10から20に分割して小規模のテストをたくさん行うのが理想だ。
キャンペーンごとに異なるランディングページ(着地ページ)を用意し、まずは需要があるところの収穫(Demand Harvesting)に力を入れる。
こうして得られるユーザーだけで、足りなければ、需要の創出(Demand Creation)のステップに移るが、これは大変な上にお金もかかるので、できれば避けたいステップだ。万が一、このステップに乗り出すときには、いきなり大きな獲物に狙いを定めず、簡単に落ちるターゲットに狙いを定めるのがいいとEllis氏は勧める。
以上のような戦略でユーザー数を増やすことができたら、次は世界展開や雇用増進といった次のステップに移れる。
ちなみにWeb 2.0系ベンチャーで、早い段階から重要となる人材はマーケティング用のウェブデザイナー、コピーライター、マーケティング・データ・アナリスト、マーケティング・データベース・アナリスト、SEMのスペシャリスト、そしてプロダクトマーケティングの監督だという。
これらを実際の業務に当てはめると、マーケターの1日の業務は次のようになる。まずはKPI(Key Performance Indicator、業績評価指標)ダッシュボードを眺める。そして、
といったことを実践していくわけだ。
今回紹介した内容をもとに、いま一度、年初に自社のビジネスを見直してみるのもいいのかもしれない。なお、Sean Ellis氏のプレゼンテーション『Metrics Driven Startup Marketing』は、同氏がアドバイザーをするDropbox経由でダウンロードできる。
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