ベンチャー企業が成功する方法は「市場を自ら作り上げていくこと」--シンクロア会長荒井氏 - (page 2)

岩本有平(編集部)2008年12月02日 19時33分

 インテリシンクでは、ソフトウェアをOEMで提供した。通常、ソフトウェアを販売する場合、店舗でのパッケージ販売とOEMという2つの方法がある。しかし赤外線通信という特性上、「(単体ではなく)『あるもの』と『あるもの』がつながるために使う。そのためいきなりソフトを売るのではなく、ユーザーがPCを購入した際に、すでにソフトが載っているという状態が理想だった」(荒井氏)と、当時を振り返る。

 OEMでソフトウェアを提供することには、これ以外のメリットもあった。パッケージ販売に比べるとソフトウェアの単価ははるかに安くなるものの、すべての端末にソフトがインストールされることになる。そのため導入する規模は極めて大きくなる。さらにパッケージングされた在庫を抱える必要もなく、販売コストについても下げることができる。また、パッケージのように定価を設定する必要がないため、取引先相手や自社の状況を踏まえて自由な価格設定を行ったのだという。「最初(1ライセンス)2、30セントで提供していたが、それが5ドルほどになることもあった」(荒井氏)

 そしてIBMのThink Padに採用されてからは、さまざまなメーカーから引き合いがあり、最終的に赤外線ポートがついているPCの95%には同社のソフトがバンドルされるという実績を残したのだという。

 同社はなぜ市場をほぼ独占できたのだろうか? 荒井氏は、OEMでソフトを提供することにより、メーカーから製品計画の内容を比較的早く公開してもらえたことを挙げる。これによってソフトウェアの最適化に向けた期間を長く用意することができたという。

 また、通信ソフトの特性上「インターオペラビリティ(相互補完性)」が非常に重要となる。OEM元メーカー各社はインテリシンクに対してテスト用に発売前の端末を提供していたため、同社ではメーカーを超えたテスト環境を用意できた。これもメーカーにとっては魅力となり、シェアの拡大に寄与したという。

 赤外線通信で市場を制覇したインテリシンクが次に目を付けたのは「データ同期技術」だった。同社は1996年に米ニューハンプシャー州のインテリリンクを買収。同分野に参入した。

 同期技術も赤外線通信と同じく2つのデバイスをつなぐための技術だが、「つなぐ」ものはデバイス、ソフトウェアともに多岐に渡り、また新製品も次々に発売されているという具合だ。

 そこでインテリシンクでは、同期ソフトのコアエンジンを用意したのち、各デバイスやソフトウェアに対応したコネクタを作るという方式を採用した。これにより、新しいデバイス・ソフトウェアを開発した際、エンジン部分には手を加えず、コネクタを作るだけでデータの同期が可能な製品を提供することが可能になった。

 当初インテリシンクでは、コネクタを自社で開発していた。しかしデバイスなど提供企業からのオーダーも増えてきたこともあり、コネクタ開発のためのSDKの販売を開始。これによって対応デバイス・ソフトウェアは一気に増えたという。「赤外線通信のように95%とは言えないが、かなりの市場シェアをとることができた。そして最終的にはノキアが(同社の買収に際して)4億3000万ドルという値段をつけることにつながった」(荒井氏)

 そんな荒井氏が現在手掛けるのは、モバイル端末とPCやサーバ間でのデータ同期を行う技術「SyncML」をベースにした携帯電話の電話帳預かりサービスだ。

 これは、携帯電話の電話帳データを、自動的にサーバにアップロードしたのちPCにダウンロードするというもの。携帯電話のトラブル時などにバックアップしたデータを戻すことができる。NTTドコモでは「電話帳お預かりサービス」、ソフトバンクモバイルでは「S! 電話帳バックアップ」の名称で提供されている。

 現在これらのサービスのユーザーは合計1000万人以上。これについて荒井氏は「最初、データの『同期サービス』という言葉ではやらなかった」とした上で「『お預かりサービス』というアプローチにした途端にユーザー数は1000万人まで増えた。発想の転換でサービスは化ける」と経験を語った。

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