Digital Hollywood Fall 2008で見えてきた、米国メディアコンテンツビジネスの方向性(前編) - (page 2)

志村一隆(情報通信総合研究所)2008年11月13日 16時37分

映画会社も認めた、「マッシュアップ」は新たなクリエイティブ手法

 ハリウッドの映画制作会社LionsGate(ライオンズゲート)は、YouTubeと提携し、同社の映画、ドラマをYouTubeに配信して、その動画を自由にユーザーがマッシュアップできるようにした。今回のDigital Hollywoodでは、この提携を踏まえ、ハリウッドの映画会社がSNSなどのソーシャルメディアをどのように活用するかが議論された。

 LionsGateのTV部門責任者であるジョン・フェロ氏は、「我々はマッシュアップを新しい自己表現の手法とし、それ自体をオリジナル作品だとみなすことにした。YouTubeはマッシュアップ作成のためのツールとみている。映画自体を無断でアップロードするのは違法だが、マッシュアップした作品のアップロードは自由にさせている」と今回の提携について説明した。

 マッシュアップの広がりは、技術がユーザーのコンテンツ視聴を手助けする段階から、コンテンツの制作を支援する段階に入ってきたことを示唆している。かつてシリコンバレーのベンチャー企業が生み出すサービスは、大手メディアのコンテンツをコピー、シェアするものばかりだった。3Dアニメ、CGといった映像技術は、ハリウッドの映画会社が独占していたからだ。ところが、技術の進歩によって、ウェブ上に公開されている映像編集ツールを使えばプロに近いことができるようになった。「マッシュアップというのは新しい表現方法であり、映画、音楽プロデューサーは時代が変わったことを認識しなければいけない」(音楽データベースを提供するGracenote CTOのタイ・ロバーツ氏)のだ。

 著作権保護技術を提供するContentGuard CEOのロブ・ローガン氏は、「これからは、動画流通のビジネスコンセプトを、プロテクションモデルから、ユーザビリティモデルに変えないと、時代から取り残される」と警告する。「映像作品は、1回見るごとにお金をもらうビジネスモデルを取っている。ウィンドウという古くからのビジネス戦略がある」とSony Americaデジタルメディア戦略責任者のアルビー・ガルテン氏は話すが、こういったモデルでは、映像作品の流動性は制限される。

 マッシュアップを流通させる仕組みとして重要なのが、ウィジェットやコミュニティの役割だ。インターネット上では、SNSをデスティネーションメディア、ウィジェットをディストリビューションツールとして位置づけ、メディアを分業させる手法が確立されつつある。コンテンツホルダーは、映像を用いたウィジェットを関連性のあるブログやサイトに配布し、SNS内のコミュニティで共有させることで、マッシュアップ作品の制作を動機づける。今まで、検索で発見されるというプル型の集客方法しかなかったインターネットメディアに、ウィジェットを配布するというプッシュ型の情報流通の仕組みが登場しているのだ。

 CBS.comは「ニコニコ動画」のように、番組を見ながら視聴者同士でチャットができる「CBS Special Screening Room」を開始している。CBS.comなどを運営するCBS Interactiveのコンテンツ提携部門責任者であるジョー・フェレイラ氏は、「今のところ実験段階」だが、「テレビ視聴者層と違ってもっと若い世代を狙っている」と語る。

 作品が流通するだけでなく、2次創作というクリエイティブを伴ってユーザーに共有されていく仕組みを構築することが、これからのインターネットメディアの成功要因となりそうだ。

CBS Special Screening Room CBS Special Screening Roomでは番組を見ながらチャットができる

筆者略歴
志村一隆
1991年早稲田大学卒業、WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立、代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で、海外メディア、インターネット市場動向の研究に従事。2000年エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号取得。水墨画家としても活躍中。

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