東証マザーズ上場のイー・キャッシュが逆襲高を演じている。
同社の株式公開は2007年3月。上場直後には69万8000円の上場来高値を付けた、期待の新興企業だった。しかし業績面で失望され、上場から約1年後の2008年4月16日には約20分の1となる3万4600円まで売り込まれた。そして5月以降、再び将来性への期待が先行する展開となってきた。
イー・キャッシュは電子決算サービスを中心に拡大してきた企業で、現在の主力はICタグなどのミドルウェア開発を手掛けるRFID事業。非接触型ICカードの市場が急速に広がっており、このRFID事業の将来性が足元の株価上昇を支えている。
イー・キャッシュにとって2008年3月期は波乱の期だった。当初は、連結売上高で17億8300万円(2007年3月期比2.23倍)、経常利益は4億2100万円(同2.12倍)を計画していた同社だが、2007年11月の2008年3月期9月中間決算発表時に下方修正を発表。経常利益は2億4100万円まで減額され、2007年3月期比の増益率は21%まで大幅に縮小した。
従来、RFID事業では受託開発型のビジネスを展開してきたが、それに加えて主要サービス提供先企業と共にRFID関連製品を共同で販売し、その売上の一部をシェアするレベニューシェア型のビジネスにも着手していた。しかし、このレベニューシェア型のビジネスが、サービス提供先企業の製造戦略の変更などによって後ズレした。
そして2008年2月、イー・キャッシュ株の下落傾向に拍車を掛ける2度目の業績計画下方修正が発表された。売上高は2007年11月の下方修正値からさらに半分以下の6億3800万円、経常損益は2億7200万円の赤字へ転落する見通しとなった。大型案件の納入時期が遅れ、2008年3月期中に売上計上できない見込みとなった。
期待先行で高株価を維持してきたイー・キャッシュ株だったが、上場してから1年間のうちに2度の下方修正を実施し、利益倍増計画が赤字に転落する見通しとなり、大量の失望売りを浴びることとなった。これまで新興市場では先端技術を持ち、独自のビジネスモデルを掲げたベンチャー企業が結果を残すことができずに投資家を傷つけてきた。イー・キャッシュにもそういった銘柄たちと同じ雰囲気が漂い始めていた。
5月に入って発表された2009年3月期業績計画は一応黒字浮上を計画するものの、経常利益は4100万円と小幅。回復は限定的なものにとどまる。業績面からは足元の株価上昇を説明することはできないが、主力のRFID事業の将来性はまだ輝きを失っていなかった。
富士キメラ総研が発表した非接触ICカード、同決済サービス関連機器、RFIDタグ、RFIDリーダライタなどのRFIDソリューションビジネスの市場規模は2008年、1950億円になる見込みであり、2006年以降の2年間で42%成長することになる。さらに3年後の2011年には2008年見込み比98%増の3873億円まで拡大すると予測されている。
現在、新興市場に上場する企業で、このRFID市場に軸足を置く企業はイー・キャッシュが筆頭。新聞紙上でRFIDやICカードの市場規模、成長見通しが報じられる度にイー・キャッシュ株に物色人気が向かっている状況だ。4月に3万4600円まで売られていた株価は、5月に入りトレンドが上方に転換。6月9日には4月安値比4倍強の14万9000円まで上昇した。
これまで足元の業績動向を嫌気していたが、急速に普及していくであろうRFID関連の中核銘柄としての将来性が先行している。ただ、中長期的に高株価を維持していくには、業績面でも実績を残し、一歩ずつ投資家の信頼を得ていく必要がある。今後は市場の将来性だけでなく、業績動向にも注目が集まっていきそうだ。
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