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思った以上に「バイオリン」--お気に入りガジェットバトン第38回

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すべてはこれから始まった

 「人間が生きていく上で必要な機器など、果たしてどれだけあるのだろうか?」

 僕にとって、情報機器だのAV機器だのといったデジタルグッズは「別になくてもいいもの」だ。――いきなり、このガジェットバトンの存在意義を否定してしまいかねないのだけど、それらは、「仕事をする上で」必要であることはあっても、「生きる上で」必要なことはまずない。もちろん、「仕事をする」ということも「生きる」ことの一部ではあるけれど、しかし「仕事をすること=生きること」ではないだろう。では、生きる上で必要なものとは何なのか。

 そういう、わけのわからんことを考えていいのはせいぜい高校生までと相場が決まってるのだけど、僕がそれまで働いてたアップルショップを辞め、テクニカルライターで食っていこうと決めて以後、なんとなくそういうことをぼんやり思うようになった。なにしろフリーライター、自宅で一人ただ黙々と原稿を書くだけ。「働く」こと以外に、なんちゅうか「れーぞんでーとる」を求めないと「ったくやってらんねーよ、けっ」な生活だったのだ。

 で、カヌーで川くだりをしたり、山登りをしたりと、今にして思えばあれこれ「生きる上で必要なもの」を訪ねる遍路が始まった。が、それは案外と身近なところにあったらしい。フリーになって数年。何とはなしに購入した、YAMAHAのサイレントバイオリン。もともと、高校生の頃にお年玉で買った安物のバイオリンはあったのだけど、誰に教わるでもなくまったくの我流。暇があるとなんとなくいじってみる、それ以上の存在でもなかった。

ケースに収まった状態のSV-100。本体以外は、割とちゃんとしたバイオリンなのだ。娘がいたずらしてE線が切れたままになってる。弦、買わないとな ケースに収まった状態のSV-100。本体以外は、割とちゃんとしたバイオリンなのだ。娘がいたずらしてE線が切れたままになってる。弦、買わないとな
本物(?)のバイオリンと並べてみる。「箱」以外の部分は本物のバイオリンとほぼ同じだ。ただし演奏すると、楽器自体がちょっと重たくて分厚いため、慣れないと違和感がある 本物(?)のバイオリンと並べてみる。「箱」以外の部分は本物のバイオリンとほぼ同じだ。ただし演奏すると、楽器自体がちょっと重たくて分厚いため、慣れないと違和感がある

 が。このサイレントバイオリンで試しに「大ホール」の音響効果を設定して弾いてみたとき、稲妻が走ったのだ。――なんだこの感覚? これは……遠い昔、高校の部活で市民会館の大ホールでコンサートをしたとき以来、忘れていた感覚。ああ、そうだったのか。うん、これが「生きる上で必要なもの」だったんだな。そいつは、ずっと前から、僕の目の前に転がっていた。ただそれに気がつかなかっただけだったんだ。

 それから、東欧の名もない(が、しかしシロウトには実にしっかりした)まともなバイオリンを購入し、新築した家にはグランドピアノが鎮座ましまし、気がつけば今、暇があるとチェロを弾いている。別に、音楽一家でもない。毎日、熱心に練習するわけでもない。ただ、生きる上で、そういうものが自分の横で伴走してくれている、それだけで何とはなしにもうちょっとだけ走り続ける気になる。いつの日かたどり着くはずのゴールまで一緒に走る仲間。「生きる上で必要なもの」ってのは、多分そういうことだったんだろう。

電子楽器でなく、バイオリンとして

裏返してみると、途端に電子楽器の顔になる。電源、効果設定、ボリューム、サウンド出力といったものがコンパクトにまとめられている。大ホールの音響効果は、感動的に気持ちいい! 裏返してみると、途端に電子楽器の顔になる。電源、効果設定、ボリューム、サウンド出力といったものがコンパクトにまとめられている。大ホールの音響効果は、感動的に気持ちいい!

 一応、電子楽器だから、これをパソコンにつないで……といった使い方ももちろんできる。だが、僕にとってのこいつの役割は、あくまで「サイレントなバイオリン」だ。消音に近い状態で弾ける練習用バイオリンとしてこいつは最適なのだ。そして、本物のバイオリンだと粗が目立つ演奏も、こいつだと何となくサマになって聞こえる……気がする。素人バイオリニストにとって「うまくなったと錯覚できる」楽器は、何にもまして代えがたい。

 昨年、転居して、いくら大音響を出してもかまわない防音効果絶大なログハウスに住まうことになった。これで本物のバイオリンも弾き放題だ。が、それでもサイレントバイオリンは、今も1階サロンの片隅にいる。今では僕よりも娘がおもちゃ代りに弾くことが多くなったけれど、普段使っているバイオリンに一朝事があればいつでも代打を務める準備はできている。思った以上にこいつは「バイオリン」なのだ。電子楽器ではなく。やるじゃないか、YAMAHA。

掌田津耶乃氏プロフィール

三文ライター兼三流プログラマ兼ログハウスオーナー。その昔、まだMacが登場する前、アップルショップでバイトを始めたのが運の尽き。気がつけばパソコン雑誌に原稿を書くようになり、それが本職となってしまった。現在、主に単行本の執筆をする傍ら、All Aboutにて「Javaプログラミング」のガイドをしたり、技術系Webサイトに寄稿したりして糊口をしのいでいる。


【使用製品】

SV-100S。


【購入時期】

1998年 秋のある晴れた日


【次回執筆者】

大重美幸さん


【次回の執筆者にひとこと】

以前、Mac関係の雑誌でよくご一緒しましたが、他のヲタク全開なライターの中で、唯一、真っ当な人間だった大重さんのことですから、また違った視点から面白いグッズを紹介してくれるでしょう。大いに期待してます!

【バトンRoundUp】

START: 第1回:澤村 信氏(カナ入力派の必須アイテムとは?) → 第2回:朽木 海氏(ウォークマンとケータイをまとめてくれる救世主とは?) → 第3回:大和 哲氏(ケータイマニアのためのフルキーボードとは) 第4回:西川善司(トライゼット)氏(飛行機の友、安眠の友、ノイズキャンセリングヘッドフォン) → 第5回:平澤 寿康氏(出張に欠かせない超小型無線LANルータ) → 第6回:石井英男氏(いつでもどこでもインターネット接続が可能なPHS通信アダプタ) → 第7回:大島 篤氏(電卓とデジタル時計の秘密) → 第8回:荻窪 圭氏(自転車とGPSがあればどこにでもいけます) → 第9回:田中裕子(Yuko Tanaka)氏(これでクラシックもOK!究極のカナル型イヤフォン) → 第10回:佐橋慶信氏(ビジュアル・ブックマークの実践方法とは?) → 第11回:清水隆夫氏(プロ御用達の業務用GPSデジタルカメラ) → 第12回:高橋隆雄氏(傭兵たるものガジェットなど持たぬ!) → 第13回:野本響子氏(「壊れても買い続けたい」理想のロボット) → 第14回:本田雅一氏(本田雅一氏の求める条件にピッタリはまる「あのデジカメ」) → 第15回:塩田紳二氏(紙に書いて「デジタルデータ」になるアイテム) → 第16回:山田祥平氏(山田祥平氏が愛用する移動時間の必須アイテム) → 第17回:元麻布春男氏(元麻布春男氏が「感心した」ガジェット) → 第18回:鈴木淳也氏(ノートPCモバイラーに必須のアイテム) → 第19回:小山安博氏(ライフスタイルを快適にするアイテム) → 第20回:海上忍氏(最強の“心理的防音ルーム”を実現するアイテム) → 第21回:大谷和利氏(古くなっても旧くならないデジタルカメラ) → 第22回:山路達也氏(ラジオを新たなメディアに進化させる「radio SHARK 2」) → 第23回:川野 剛 氏(あと10年は使いたい頑丈なデジカメ) → 第24回:野田幾子氏(面倒を楽しませてくれるウチの亭主) → 第25回:井上真花氏(デジタルだけどアナログのよさを持つ10年選手) → 第26回:安田理央氏(録音するならコレがいい!) → 第27回:とみさわ昭仁氏(コレが「僕の人喰い映画館」) → 第28回:米光一成氏(一度味わうとやめられない便利さ) → 第29回:小野憲史氏(小型で軽量、薄暗いところもシッカリと!) → 第30回:Jo Kubota氏(いつでもどこでも自作・分解するツール) → 第31回:唯野司氏(こよなく「DSテレビ」を愛す) → 第32回:平山美江氏(ハイビジョンレコーダーで動画を120%味わい尽くす) → 第33回:龍川優氏(メタボが怖けりゃ付けてひた歩け!) → 第34回:林 信行氏(自信を持って名機と呼べる携帯電話) → 第35回:塩澤一洋氏(心をまっすぐ伝えるカメラ「GR Digital」) → 第36回:林 伸夫氏(ガジェット嫌いの私が衝動買いした「Garmin Forerunner 305」) → 第37回:川村渇真氏(古いレンズをデジタル一眼レフでも使いたい!)

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