いい技術とは何か--日本人学生エンジニアの激論160分(前編) - (page 3)

佐俣アンリ、文:田中誠2008年01月16日 18時54分

エンジニアと経営者

原田:インフラ寄りのIT技術も日本にはあると思いますが、インフラ側に寄り過ぎると企業の稟議が通らないという現状があると思います。そうするとどうしてもWebなどの小コスト、低リスクでできるところにお金が流れやすくなっているように感じます。

 そういう日本の経済の構造上、技術を伸ばしにくい環境になっているのかなとは思います。

大倉:日本の場合、経営判断する人の中で技術を理解している人の割合が少ないというのが現状だと思います。

 そうすると技術を技術として評価するのではなく、技術の上にサービスをラップした形で初めて評価できるという形になってしまうのだと思います。つまり、先ほど西川さんが言ったように、技術だけでは売れなくて、技術にサービスを付けないとなかなか売れなくなってしまう。

 技術とサービスは本来別物なので、それぞれ良い物を選んで組み合わせられるのが理想です。でもそれができていないんだと思います。良い技術があっても評価されず、世の中に知られず、その分野で頑張ろうという人も減ってしまうーー。そんな状況何じゃないでしょうか?

大倉氏 「最近では『Wii』が技術と経営が結びついた良い例だと言われてますよね。ヒット商品にできたのは開発者が頑張っただけでなく、そこでゴーサインを出せた経営者の判断もすごかったと思います」

佐俣:大倉さんは外資系IT企業を選ばれたわけですが、日本の企業・技術者と、外国の企業・技術者を比べて…、という視点はあるんですか?

大倉:ここは国内の企業でここは外資で、と分けて考えていません。

 中国やインドの優秀な技術者たちもシリコンバレーなどに行って勉強し、働いたあと、地元に戻って事業を興していると聞いたことがあります。つまり、中国やインドの国内で技術力が上がってベンチャーが生まれているというわけではないんですよね。これだけ世界が一体化している状況で、必ずしも各国で個別に技術開発をしなければならないということはないと思うんです。ですから世界に貢献するという考えでフラットに考えて、たまたまそうなったという感じですね。

西川:僕もそのあたりの壁はないですね。会社のメンバーは全員日本人ですが、たまたま出会う機会があって、それが全員日本人だったというだけですから。将来的にシリコンバレーに進出するということだって可能性としてはあるわけです。技術は日本に留まっているものではないですし、逆に日本にいても外国で開発された技術を論文などで見ることもできますしね。

 最近の日本のIT業界はどうかという話では、確かに技術とサービスがうまく結びついていないという感じはします。技術は日本中にあるのにサービスとして成長していく時に何らかの問題がある感じですね。

佐俣:やはり技術とサービス、技術と経営がうまく結びついてないという現状はあるようですね。

原田:最近では「Wii」が技術と経営が結びついた良い例だと言われてますよね。CMOSや3軸加速度センサーなどは、情報系や工学系の教室ではそのへんに落ちてるような珍しくもないセンサーですが、そういう技術でもヒット商品にできたのは開発者が頑張っただけでなく、そこでゴーサインを出せた経営者の判断もすごかったと思います。技術的なことを理解していないとできないと思いますので…。

 センサーなどでしたら分かる方も多いと思いますが、西川さんが手がけている検索エンジンの圧縮サフィックスアレイなどになると、専門ではないとよくわかりませんよね(笑)。そのあたりを理解してゴーサインが出せる、しかもそのような決裁権を持っている人が多く出てくることが必要なのかなと思います。

「ハッキリ言って、地位が低い」

佐俣:なぜ技術とサービスが結びつかないんでしょう。その根本的な原因はどう考えていますか?

大倉:技術という言葉を使う時点ですでに曖昧になっていると思うんです。たとえば「Twitter」というサービスは技術が素晴らしいと言う人もいると思います。実際、裏側の技術は素晴らしい部分もあると思いますが、みんながそういう部分を素晴らしいと言っているのではなく、ひと言を共有できるという部分が素晴らしいと言っている人も多いように思います。そうなると技術ではなくてサービスじゃないでしょうか。

 まず、その切り分けが大事なんだと思います。切り分けて認識できてはじめて、サービスを実現するのに最適な技術を選ぼうという発想が出てくると思うので。

原田:技術が分からなかったら分からないなりの経営方法があると思うんだけど、それがうまくいっていない感じはしますよね。

大倉:その辺は日本社会での価値基準にあるんじゃないでしょうか。分からなければ自社内にいる技術が分かる人と議論すればいいのに、場合によっては外部のコンサルタントなどに聞きに行ったりしてしまう例も聞きます。もったいないと思います。

佐俣:ハッキリ言ってしまうと、エンジニアの地位が低いと。

大倉:そう思います。

原田:エンジニアの話を経営者が聞いても理解できないということもあるんじゃないかな。経営者が技術に詳しくないというだけでなく、エンジニア側も経営者が知りたいことをアドバイスできないという意味で…。そのアダプターの部分が欠けている感じはしますね。

西川:僕はとにかく経営者が技術を知らないとダメなんじゃないかと思います。しかも、かなり深いところまで知らないとIT系では厳しいと思います。

後編に続く

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