こうした業界内の思惑をまとめると以下のようになるだろう。インターネットが原因で、すでに音楽の価値は下落している。音楽には金銭的価値がないという考えを広めるのに、これ以上自分たちが手を貸していいのだろうか、というわけだ。また、レコード会社で決定権をもつ人の中にも、SpiralFrogのサービスに対して懐疑的な目を向ける者がいる。楽曲のダウンロードには最大で90秒かかる。90秒と言えば、広告表示にも十分な長さだが、同時にユーザーをいらいらさせるのにも十分な時間だ。
SpiralFrogは、約束どおりであれば、2006年の12月にサイトを開設するはずだったが、それどころか、同社の経営陣がMohen氏と意見対立し、会社を去るという事態に陥った。退職した経営陣には、Kent氏、最高財務責任者(CFO)のTom Patrylak氏、最高戦略責任者(CSO)のBob Goodale氏、販売およびマーケティング担当ディレクターのLance Ford氏などが含まれていた。彼らに続いて、取締役も半数近くが社を去った。Mohen氏は、Kent氏と退職した取締役のポストに新しい人員を入れ、数カ月前からカナダと米国でSpiralFrogのウェブサイトのテストを開始していた。
数週間のうちに開始する見込みのSpiralFrogのサービスは、およそ77万曲のライブラリからスタートすることになる。だが、これに対して、AppleのiTunesが提供可能な楽曲数は600万曲を超える。
その他にも懸念はある。それは、更に追加ライセンスを購入する資金が同社にあるか、ということだ。SECの文書によれば、SpiralFrogは2007年、担保付き約束手形で1000万ドルを調達したという。約束手形というのは基本的には借金だ。そして、10月からこの手形の返済が始まり、1000万ドルに対して年利12%の利息を支払わなければならない。これはつまり、SpiralFrogは、楽曲のライセンス料支払いに加えて、借金の返済もしていかなければならないということだ。
SpiralFrogは、SECに提出した10SBフォームの中で、同社を担当した独立会計士が「当社の継続企業としての存続可能性について、相当の疑問を表明した」と記している。しかし、Mohen氏は財務面の懸念を深刻に捉えていない。会計士の意見についても、通期決算で利益を上げていない企業には義務づけられているものだと同氏は述べ、利益の上がっていない新興企業の提出書類には、決まってこうした文面の意見がつくものだと語った。
「状況として変わりつつあるのは、SpiralFrogが現在、米国とカナダにおいてウェブサイトを立ち上げたということだ。われわれには顧客がいて、売り上げがある。そしてユーザーも集まろうとしている。われわれは、事業から得られるキャッシュフロー、ならびにここまでのステップから、成功を確信している」とMohen氏は述べた。
SpiralFrogにさまざまなトラブルが生じたからといって、広告をベースにするビジネスモデルを支持する人たちの信念は揺いでいない。実際、4大レコードレーベルのすべてと契約を成立させている無料楽曲サービスのRuckus Networkは、300万曲以上の楽曲を提供し、1年以上にわたって事業を続けている。
SpiralFrogとRuckusの違いは、後者が大学生をターゲットにしているという点だ。バージニア州ハーンドンに拠点を置くRuckusは、170を超える学校と広告ベースの楽曲提供の契約を結んでいる。非公開企業のRuckusで社長兼CEOを務めるMike Bebel氏は、SpiralFrogのケースについて個別に言及することは避けたが、広告ベースのビジネスで利益を上げる秘訣は、大規模な楽曲ライブラリを提供することだと話す。
「それはつまりわが社のユーザーが、わが社の楽曲コレクションをあれこれと見て回り、わが社のサービスに多くの時間を費やしてくれることを意味する。サイトで長い時間を過ごせば過ごすほど、より多くの広告インプレッションが得られる。そして、それこそ広告主が望むことだ」とBebel氏は述べた。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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