広告ベースのサービスに精通しているある音楽業界の幹部は、SpiralFrogの契約料は高すぎるとの見方を示した。「これほど多額の契約料をレコード会社に支払ったという話は、しばらく聞いたことがない。この数年、レコード会社はさまざまなサービスを通じて自分たちのコンテンツを配信しようと必死で、値下げにも積極的に応じているからだ」
だが、Howard Rice Nemerovski Canady Falk & Rabkinに勤める弁護士で、かつてはNapsterの最高経営責任者(CEO)を務め、ベンチャーキャピタリストでもあったHank Barry氏の見方は違う。Universalは、1曲ダウンロードされるごとにSpiralFrogに課金する方式を採っていないので、Universalとの契約はSpiralFrogにとってかなり有利なものだというのが同氏の意見だ。
「この契約では、ダウンロード単位の料金に下限はないようだ。その代わりに(Universalは)『受け取り総額』の50%を録音物に関係する費用として受け取っている。さらに出版権に関して追加料金が必要になる。これは、SpiralFrogにとって非常にいい話だ。なぜならSpiralFrogは、広告市場から得られるだけ収入を得て、その半分を(Universalに)支払えばいいのだから、高額な(ダウンロード単位の)料金制にするよりいい条件と言える」(Barry氏)
SpiralFrogがSECに提出した書類に含まれていた契約書の写しによると、SpiralFrogが660万ドル分の広告を獲得すれば、Universalに前金として支払った330万ドルのいくらかは取り戻せることになる。
もちろん、SpiralFrogはまず楽曲の提供を開始しなければならない。提出書類によると、新興企業のSpiralFrogはこれまでに手持ちの現金の大半を使い尽くし(2007年だけですでに400万ドル以上を使っている)、借り入れによる資金調達活動を開始したという。2007年3月、財務状況が切迫し、SpiralFrogはついに役員の1人から6万3000ドルを借り入れる決断をした。その後も、その役員への借金の返済が遅れ、追加で3300ドルを支払わなければならなくなったと、SECへの提出文書には記されている。
だが、財務面で苦境に立たされているにもかかわらず、SpiralFrogの役員たちは依然として多額の報酬を受け取っている。提出書類の記載を見ると、2006年、SpiralFrogが670万ドルの損失を出そうというときに、Mohen氏に対しては42万2000ドルを超える金額が「コンサルティング料」および未払い賃金として支払われていた。同社前CEOのRobin Kent氏も、給与として年間34万ドルを受け取っている。Kent氏によれば、7人いた経営陣は、Mohen氏と総務担当役員を除いた全員が繰延報酬の受け取りを見合わせることに同意したという。Mohen氏は、この点を強調し、SpiralFrogで未払い賃金を受け取る権利があるのは、自分と総務担当役員だけだと述べた。
Mohen氏は、このような高額報酬を擁護して「企業が事業を始める前に報酬を支払うのは珍しいことではない」と述べ、今後ウェブサイトが立ち上がれば、財務面の負担も軽減される可能性があると付け加えた。「ようやくサービス開始の準備が整った。サービスの立ち上げに向け、広告主もそろっている。事業がスタートすれば、かなりの売り上げを得られるだろう」とMohen氏は語った。
SpiralFrogが広告ベースの楽曲サービスを無料で提供する計画を発表した2006年の時点でも、その手法自体は新しいものではなかった。だが、同様のビジネスモデルを展開している他社と違って、SpiralFrogには強い裏付けがあった。最大手のレコード会社Universal Music Groupとの契約だ。一部の専門家の間では、この契約だけで最新の「『iTunes』キラー」の資格十分にあり、との声さえ聞かれた。
だが、2006年8月の大々的な発表以降、SpiralFrogは沈黙してしまう。4大レコード会社の残る3社、Sony BMG Music Entertainment、Warner Music Group、EMI Groupとの契約発表もない。また、SpiralFrogはイメージダウンという壁にぶつかった可能性もある。音楽業界のある幹部が匿名を条件に語った話によると、多くの音楽業界人は、「無料」をうたうサイトに自分たちの音楽が掲載されることに慎重になったという。
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