経営と株式公開の準備の方法には密接な関係がある。いずれかに問題がある場合には、もう一方にも同様の問題がある。株式公開のワンポイントを解説するシリーズ8回目は、コンサルタントから見た経営者とCFOのそれぞれの役割について述べる。
緊急性が低くても重要性が高い「本質事項」に、経営資源をいかに振り向けられるかが株式公開準備の成功の秘訣と前回述べましたが、これは経営全体に当てはまるでしょう。私はよく先輩経営者から「助走期間はできるだけ長く取れ」と教えられました。それも本質事項に経営を振り分けるということと同じ意味だろうと思います。
助走期間とはいえ手抜きや怠惰は許されないのですが、スピード重視の経営者には物足りなく感じられるに違いありません。同じ結果を出すならスピードが早いにこしたことはありませんが、スピードのみを考えていると、経営全体では必ず何かを犠牲にします。だから私も若い経営者には、たとえ伝わらなくても「助走期間を長く取り、その助走期間を真剣に走れ」と繰り返すようにしています。
経営と株式公開準備には強い相似性があります。株式公開準備で起こることは、たいてい会社の他部門でも起こっています。短期決戦を目指し、手を抜きコストを抑え、安易に結果を求めて公開準備をする会社は、本業のビジネスでも同じ手法を取っているものです。ただし、これは専門領域ですのでボロが出難いのです。私は「創業時から株式公開準備に取り組め」と申し上げておりますが、これは「株式公開コンサルタントや監査法人と契約せよ」という意味ではありません。哲学のある経営活動は、それ自身が株式公開準備でもあるのです。
株式公開準備の後半戦ではCFOが成否を左右しますが、株式公開準備初期の段階までは、社長の経営観や心構えが重要です。収益に貢献しないからとCFOの採用を渋り、公開準備に自らの時間を割く社長もいる反面、社長が決める事項までCFOに丸投げし、その結果公開準備が滞るケースもあります。社長とCFOとの役割分担は会社により千差万別ですが、私が「社長マター」と感じる部分を表にまとめました。
表の半分程度はクリアできないと、CFOや株式公開コンサルタントも使いこなせないかもしれません。自己チェックにお使い下さい。
利害関係者 | チェック項目 | 成果物 |
---|---|---|
社会 | 1)経営理念が明文化され、社内で共有されている。
2)経営理念を具体化する手段は明確である。 |
経営理念、社会貢献策 |
株主 | 3)自社の資本政策のポイントを把握している。
4)理想の株主、株主への還元方法がイメージできている。 |
資本政策案、株主還元策(配当方針、株主優待の方針など) |
経営者 | 5)あるべき組織図を描ける。 6)取締役(特にCFO)、監査役(特に常勤監査役)がいる。または意中の候補者がいる。 7)貴社独自の業績等のモニタリング・システムが構築されている。 |
モニタリング・システム、組織図(業務分掌、職務権限) |
役職員 | 8)残業代の計算が合法的にされている。
9)給与水準、休日、研修、キャリア形成の水準は同業他社と比較して優位性がある。 10)採用基準、昇給昇格基準は明確。 |
人事諸制度(就業規則、給与規定、CDP等) |
クライアント | 11)10億円の経常利益をいつ、どのように達成するのか、社長がイメージを持っている。
12)売り上げ、黒字を継続させる作戦がある。 |
人事諸制度(就業規則、給与規定、CDP等) |
社長 | 13)重要事項中心の経営スタンスが構築されている。
14)自分の好き・嫌いの好みが明確。 |
スケジュール管理ツール(手帳等) |
記事提供:「VFN」(発行:プレジデンツ・データ・バンク株式会社)
1988年東大文卒。同年大和証券入社。1999年大和証券SBキャピタル・マーケッツ(現大和証券SMBC)を経て、2000年に退社し独立。41歳。東京都出身。
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