あの「字幕.in」が会社になった--ネット上の字幕サービスをBtoBで提供 - (page 2)

鳴海淳義(編集部)2007年06月04日 06時00分

 矢野さとる氏は1981年生まれ。20歳までを福岡で過ごした。ウェブサイトを作り始めたのは高校生の頃からだ。自宅にインターネットが繋がり、初めて自分でホームページ作ったとき、世の中に対して何かを表現できる楽しみを知ったという。現在では57ものサービスをネット上に公開している。

 ホームページ制作に興味を持った理由は、単純に作ることが好きだったから。それともう一つ、「すごく学校の勉強ができない子だったんです。その自分のモヤモヤしたものを発散できる場所、自己主張の場として、ネットがあった気がしますね」(矢野氏)

 学校の授業の内容は覚えられないが、プログラムのこととなると使われる脳が違ってきて、記憶力が一気に増す。興味があることに対してはモチベーションを高く保てる。ただネットに出会うまでは、自分の能力を発揮できる対象がなかった。

 子供のころから周りを笑わせるのが好きで、ホームページ制作もその延長線上にあった。基本的な性質がエンターテイナーである。そういった性格のため、高校卒業後に予備校に入ってすぐに、「もっと予備校が面白くなれば」と考えてホームページを作った。しかし、そのサイトのコンテンツ(講師ランキングやチューターランキングなど)は予備校側の怒りを買ってしまった。

 その後、スポーツ紙で2年間ウェブ担当のアルバイトを経験し、21歳でヤフーに転職して上京した。その頃から個人ホームページにとどまらない、よりオリジナリティのあるサービスを作り始めるようになった。ヤフーの次はライブドア。そして2006年1月には元ライブドアのメンバーと一緒に会社を設立し、1年間ほどCTOとして働いた。中高年向きのSNSとそれに付随するサービスが主な業務内容だった。徐々に自分のやりたいことと方向性が違ってきたため、2007年1月に会社を辞めて、個人の創作活動に入った。そうしてできあがったのが「字幕.in」である。

字幕.in字幕.in トップページ

 動画に字幕をつけられる字幕.inは多くのユーザーを集めたが、当初はこのサービスをきっかけにして会社を作るという発想はなかった。だが字幕.inはこれまで作ったサービスとは違い、「ビジネスとして使いたい」という問い合わせが多かった。実際にそういった話を聞く中で、企業とのコラボレーションによる発展の可能性も感じられた。

 字幕inの第一弾ビジネス化案件はすでにローンチ間近だ。角川映画配給の『ミス・ポター』という映画のワンシーンに字幕をつけるコンクールを神田外語グループが主催する。審査委員長は字幕翻訳家の戸田奈津子氏で、コンクールの仕組みは「Powered by 字幕.in」。神田外語グループの100周年を記念したこの企画は、6月中旬に公開される。これは矢野氏が個人で請け負ったものだ。

 このコンクールは字幕.inのベースの仕組みを改良したもので、非常に実用的な使われ方である。ただ本来なら字幕.in自体がそのままプラットフォームとして使われるに越したことはない。今後はより自動的に動いていくビジネスが目標だ。「ウェブサイトでも同じですけど、例えばブログは常に自分が発信し続けないと成り立たない、でもレンタル掲示板は枠組みさえ作ってしまえば自然に人が集まってきてコンテンツが回っていく。会社もそういうCGMみたいな状態になればいいなって思うんです」

 字幕in株式会社も最終的にはそのようなエコシステムの構築を目指している。設立当初は矢野氏が社長に就任するが、「最終的には放っといても動いていくような感じにしたい」。起業したことで自分の創作活動が制限されてしまうことが唯一の懸念だ。

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