総務省と独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT)は2007年4月、ICT(情報通信)の分野における産業競争力強化と地方再生に向け、高専学生に対してのベンチャー創業、ICTベンチャーへの就業を支援する「頑張るICT高専学生応援プログラム」を開始する。
このプログラムがどのような経緯で作られたのか、その背景と概要、運営に対しての展望について、NICTの担当者である木村順吾氏、福井高専教務主事の太田泰雄氏、福井高専を卒業してjig.jpを起業した福野泰介氏に語ってもらった。
木村氏:2つのきっかけがありました。1つめは2001年、平沼経済産業大臣が『大学発ベンチャー1000社構想』を打ち出したことに発端しています。2004年にその数値的な目標は達成しましたが、各社の事業内容に目を向けると、「数値目標の達成だけに満足してはいけないのではないか」との思いにかられました。
その後、「大学生になってからベンチャー精神を学んでもらうのは遅いのではないか」「もう少し早い段階からベンチャーに対して問題意識を持ってもらう方がいいのではないか」──という思いを抱き、プレ大学教育に関心を持ちました。
しかし、日本の高等教育は「ゆとり教育」という名の元で、「ゆるみ教育」になっているとの指摘を受けている状況。実際、ゆとり教育の影響で勉強しない学生が増えてしまいました。そして、高校は大学受験のための勉強をする場になってしまい、ベンチャー教育を導入するには限界があるように思えてきたのです。
このように思いあぐねているとき、たまたま高専卒業者の福野さんに出会い、すばらしい若者がいるということを知りました。実は福野さんとの出会いがきっかけで、「ベンチャー精神を学んでもらう対象として高専はどうだろう?」という興味を持ったわけです。
きっかけの2つめは、グローバルな視点からです。
世界を見渡すと、中国やインドは経済規模で日本を追い越していくことが決定的になりました。中国やインドでは今、若い技術者の育成に熱心に取り組んでいます。インドでは優秀な若者が集まるインド工科大学が設立され、中国でも理科系の優秀な大学がたくさんあります。そこでは若い学生がひしめき合いながら競争し、切磋琢磨しています。
日本でも若い学生の育成を目指さなければ、この先、どんどん引き離されてしまうでしょう。明治以来、日本は富国政策として工学系の学校を作って、優秀な人材を育成してきました。そして今、インドや中国に追い抜かされようとしている中、もう一度、国が支える富国政策が必要だと思ったわけです。
福野氏:個人的にはそれほど遅れてはいないと思います。それは日本の技術的観点で言えば、ということですが。
たとえば、「グーグルはすごい」と思っても、技術的には日本の技術者でも十分に理解できるものです。しかし、日本の技術者とグーグルが決定的に違うところは、「実際にそれをやった」というところなんです。
なぜ日本で革新的な技術が出てこないのかというと、「英語が苦手で、小さくまとまってしまうせいだ」などと言われていますが、もうひとつの理由として、「技術者が不当に扱われている」という面もあるのではないでしょうか。日本は技術的に進んでいますが、実施するところまで行かないし、行けない環境があると思います。
太田氏:高専の学生を理解していただくには、まず、高専の技術教育の取り組み方をお話ししましょう。
高専が作られたころは、即戦力があり、実践的な技術者を養成していくというのが教育理念でした。役に立つには社会ニーズを探し、マッチしたことに取り組んでいかなければなりません。そして、今の教育理念は、独創的な技術者を育成し、問題を自分で見つけて解決できるような技術者を作ることです。
問題解決ができる技術者を作るという理念は、究極に突き詰めると「ベンチャー企業を起す人」に当てはまります。
地位的な問題という話が出ましたが、具体的に高専の場合、5年で卒業して大学と同等の待遇を提示しているはずですが、実際に企業に入ると大卒よりも給料が安いということが少なくありません。その理由として企業側は、「高専卒は20歳、大卒は22歳で就職するので2年の差は当然」といいます。しかし、2年後に同じ待遇になるかどうかは、疑わしいのが実情なのです。
技術者が不当に扱われがちといっても、福野さんのような人もいます。他にも高専を卒業して頑張っている人がメディアを通じてたくさん報告されている。どんどん名前がメディアに出て伝わっていけば、高専の地位も向上していくでしょう。
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