Windows Vistaの挑戦はマイクロソフトのものだけにあらず - (page 2)

難しい訴求ポイント攻略

 では、OSの入れ替え需要を促進するような価値訴求点とは何だろうか。

 前掲の統計資料からも、日本においては若年者がいる世帯を中心にPCとインターネットが必需品となっており、Vistaという製品が対象とする市場は決して小さくなくことがわかる。そしてその市場の状況を見ると、すでに社会生活面での充足がなされており、現状を否定するような要素の排除を求める傾向が強まってきている。すなわち、「簡単・安全・安心」といった、安定した社会ならではの価値志向の発現だ。そのため、Vistaが訴求する「簡単」「安全」という点は、決して的外れなものではない。

 だが問題は、「簡単」「安全」というものは、確かにアピールしやすい領域ではあるものの、利用者ごとに異なる=相対的な価値観に従うものであるという点だ。加えて、本質的な意味でユーザーのITリテラシーがPCの普及率の上昇に伴って向上しているとはいえない。そのため、「簡単」「安全」という領域に対する性能の向上は、いかんせん感覚的にしか訴求することができず、重要ではあるものの決定打に欠けざるを得ない。

 同時に、「簡単」「安全」というと簡単に聞こえるが、OSレベルでの実現には非常に大きな投資が必要だし、その継続的な機能維持のためには更新が不可欠で、それを支えるためにはネットワークを介した大規模な後ろ盾の構築も必須となる。これは、小規模なサービスレベルの引き上げのためにも大きな投資を伴う、「言うは易く、成すは難し」の典型例となる。そのため、経営的にはコストパフォーマンスに応じた価値分岐点を設定する必要があるのだが、企業相手ならともかく、消費者市場に対してどう対処するかは難しいのではないか。

 もちろん、おろそかにしていいと言っているわけではないが、その苦労があまり具体的な訴求ポイントとして伝わりにくいという難しさがある領域なのだ。移行促進のための心理的な障壁を排除するのは世界の巨人であるMicrosoftにとってもたやすい挑戦ではない。

 加えて、本質的な課題として、すでに多くの世帯にまで普及しコモディティ(日用品)化したPCにおいて共通して必要とされる機能(メールなどのコミュニケーション機能とウェブブラウジングなどの情報閲覧機能、一部のマルチメディア再生機能、加えてワードプロセッシングなどの事務的な生産機能)は実質的に限定されてしまっていることが挙げられよう。

 これらの必須機能は必ずしも先進的な性能を要求するものではない。また、これら以外の周辺機能は、そのニーズにおいて極端に多様化する傾向が強い。その対処に走ることは、OSとしてあまり賢明な選択ではなく、ましてやメールやブラウジング、マルチメディアプレーヤーなどについては機能分割した製品の出荷を義務つけられている地域すら存在する。

 このように、Vistaの前に立ちはだかる課題は、その製品ゆえというよりも、新たな市場のリーダーという位置づけに起因するものも多い。仮にMacが同様なポジションにあったとしたら同じ課題に直面することは明白なものばかりであろう。

 いかにして、これら課題をクリアしていくのか。単にMicrosoftにとっての課題というだけではなく、情報化社会に生きる我々にとっての課題として考えてみても面白いのではないかと思うのは僕だけだろうか。

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