デザインから見るデジタルプロダクツ--第3回:ウィルコム「9(nine)」携帯電話 - (page 2)

インタビュー・文:木村早苗2006年12月22日 21時23分

薄型化の実現は“mm単位の攻防戦”

--今回はカラーリングもホワイトとブラックという、大変潔い2色を採用されていますね。

堀田 形状が映えてコンセプトがよく伝わる色ということで決めました。ウィルコムではユーザーが複数の端末を所有することも想定していますから、他モデルとのマッチングも考えています。ホワイトはグロス、ブラックはマット仕上げと色だけではなく、質感も変えていますのでそれぞれカラーリングに合った、抑えた雰囲気に仕上がっていると思います。

田尻 ブラックはボタンが碁石のように見えませんか? テカり具合や質感、潔さなど「和」のイメージを大切にして作り上げました。

--オプション製品のデザインもユニークですね。充電器も美しいスクエアフォルムで。

堀田 充電中も9(nine)のコンセプトがきちんと伝えられるようデザインしました。本体が直線と直角を強調したデザインですので、充電器にも垂直に立つようにしたかったんですが、安定感を重視した結果、若干傾けています。

--形が決まるまでは、サンプルもたくさん作られたのでしょうね。

堀田 最初のモックアップは実は今より一回り小さいサイズだったんですよ。でも、動作のしやすさや手に持った時のサイズ感、Webブラウジングするための液晶サイズとか、技術・スペック面で田尻やKESの方からアドバイスをもらって、結局モックアップと同じ比率のままサイズを一回り大きくしたんです。

--この比率に液晶サイズが大きく関わっているんですか?

田尻 ええ、液晶は2インチのサイズのものを採用しているのですが、液晶の横幅と端末がほぼ同じですから。さらにイルミネーションやスロットカードが同じ場所にあるのに、ここまで薄くできたのはもうKESの設計士さんのおかげです。

堀田 一番苦労したのが薄さです。KESの方には薄さで定評のある携帯電話「talby」や「INFOBAR」を超えたいと、「今後はこれがスタンダードになるはずだから」と説得しました(笑)。実際、突起物を含んだ場合はINFOBARより薄いんです。この形で世の中に出すのであれば、それを超えなくては意味がないと思っていた位ですから。

田尻 このバランスを保つために、通常より0.2mm薄い電池を探し回ったんです。これが見つかったからこそ、11.5mmという薄さが実現できたと言えますね。電池のフィルムの巻き方にも気を遣ったりして。

堀田 スタッフみんながコンセプトを理解してくれた幸せなプロジェクトでしたね。

--薄型化には大変な苦労が隠されていたんですね。

堀田 でも、サイズ感だけはどうしても譲れなかったんですよ。これは男性のスーツの胸ポケットにピッタリのサイズなんですが、かさばらない存在感を出すために少しずつ薄くしていって。それこそカンナで削るような気持ちで(笑)。

田尻 もう一回り大きくしてしまうとそれこそ、角の部分が気になってしまうと思うんです。でも、今のサイズ感だとゴツゴツした印象が抑えられている。実際、角が丸い方が見た目には小さく見えると思うんですけど……。

堀田 角はこの商品の命ですから(笑)。

--形が特殊なだけに、細部にも工夫がありそうですね。

堀田 ええ。ボタンのサイズ感や見やすさには注意しました。本体のサイズ自体は小さいのですが、実はボタンサイズは他モデルとそんなに変わらないんです。小さな面積の中で大きなボタンが目立ってしまわないよう、フォントもイメージが壊れないような物を選んでいます。ただ、本体のデザインが「シンプル」を追求している分、GUIだけはモノトーンの世界観だけど遊び心が感じられる物、という感じで作っています。例えば、15秒ごとにグラフィックがスライドする時計や月ごとに変わるアイコンなどですね。大人の遊び心って「よく見るとわかる」という所にあると思うんです。

9(nine)ボタン ボタンサイズは特にこだわった部分の1つ。横幅40mm、縦124mmというコンパクトボディに合わせて小さくなってしまわないよう、通常の携帯電話と同等のサイズを維持した

そのあたりのこだわりはご自身がプロダクトを選ぶ際にも共通していることですか?

堀田 そうですね。私はスペインのシューズブランド「カンペール」の靴が好きなんですけど、それぞれのデザインがウィット感に富んでいて、持っているだけでうれしくなるんですよ。そういった「うれしくなる」「楽しくなる」という五感に訴えるようなデザインを、9(nine)には入れ込めたと思っています。

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