日本でも普及し始めたスマートフォン、その背景とは - (page 2)

独立個人とコラボレーションという需要

 秘書文化の普及した欧米でも、1980年代以降ITを使ってホワイトカラー環境の効率化を積極的に推進したことにより、単純な取り次ぎ業務を前提とした秘書採用は急速に減っていった。また、多くの個人事業主やその集合体であるパートナーシップ組織では、スケジュールも含めた管理業務を、ある程度の規模にならない限り、ビジネスの執行者その人に任せるのが当然となり、そのスキル自体がビジネスの継続的な成功の主な要因になっていた。このような状況下では、グループワークやチームワークの必要が生じたときには特に、スケジュール管理などのビジネスプロセスインフラ整備の重要性が高まる。

 加えて、行動記録などをベースとした更なるビジネスプロセスの効率化=ホワイトカラーのカイゼン運動とも言うべきものが推し進められた。結果、機能別に専門化が進行したプロフェッショナルによる、案件ベースでのコラボレーションが日常化した。専門化の進行により、製造業の時代の発想による「規模」ではなく、「質」が重視される時代が到来した。

 欧米では、コミュニケーションやコラボレーション環境を提供するのが「組織」の強みとなり、よりITのニーズが高まった。人材を「ヒューマンキャピタル」と呼び、外部調達よりもトレーニングなどによる内部での育成が重視されてきたのも、これまでとは違う形で「会社」という組織をとら捉える傾向が強くなったためだ。

 そして、ゆっくりではあるが、これらの波が日本にも訪れてきた。欧米のようなダイナミックな環境変化への自主的な適応というよりは、一種の外部圧力による受動的なものだが、とはいえ日本企業の内部体制の変化に伴い、妥当な選択肢としてパーソナルなITソリューション=スマートフォンが浮上してきた。

 その受動性から生じた、内部発生的なニーズと外部から押し付けられたニーズとの差分となる歪みが、スマートフォンなどのストレートな市場形成を阻んできたわけだ。

 流石にこれらの歪みや企業風土までを通信事業者は変えることができない。そして、時代の流れによりそれが変わってきたことで、ようやくスマートフォンが提供する価値への需要が顕在化したといえるだろう。

法人をターゲットに据え始めたキャリア

 これまでモバイルにおいて法人営業は決して主流ではなかった。しかし、大口割引などタリフ(料金設定)の自由化に引き続き、来る11月から導入されるMNP(携帯電話番号ポータビリティ制度)によって、個人所有、個人支払いであっても企業単位でケータイを同一キャリアに揃えることが可能になり、モバイルと直結したITソリューション提供など法人向けの事業が本格化する。その受け皿としてスマートフォンが重要な位置づけになりうることもあって、キャリア各社も前向きになってきているようだ。

 そして、ビジネスコンシューマーという「個人」がスマートフォンを求めるようになってきた今、ようやくモバイル連携システムソリューションが本格化してくる条件が整ったといえよう。

 これまでは、特定の業種や職種でバーコードリーダなどを備える必然性がある人向けにPDAやスマートフォンなどがキャリアやSIベンダから提供されてきた。しかし、それは一種の強制的普及であり、本質的なニーズによるものではなかったといえよう。

 構内では無線LANを用いたIP電話端末として、屋外では携帯電話として利用できるモバイルセントレックスシステムの条件を満たした端末も、ビジネスユーザーに限らず提供されるようになりえるだろう。加えて、すでに一般向けの端末に組み込まれたICチップなどの機能を社内システムに取り込んだものも出てくるに違いない。

 そうなると、コンピュータシステムの延長上でICカードやPDAなどのソリューションを提供してきたSIソリューションベンダとモバイル事業者の法人部隊やシステム部隊が激突するシーンも多く出てくるはずだ。

 このことは、ウェブによる消費者などへのパワーの移行を指す「Web 2.0」を超え、モバイルやICチップなどのシステムそのものがネットワークに有機的に組み込まれ、リアルとネットが連携する「ネット3.0」という世界そのものの始まりを指すだろう。

本当の需要を求めて

 これまで主流だった消費者向けにも、サプライヤーロジックに沿った「多機能化・高性能化」を売り物にするのではなく、消費者の需要に応えたサービスが登場してきている。位置情報確認機能などを備えたシニアケータイやキッズケータイの登場だ。親が幼い子の安全を気遣い、老いた両親への安心への配慮をケータイに託す際にも、購入し料金を支払う層の心理をより明確に反映した端末の人気が高まっている。

 しかし、これらの「表面的な需要」に沿った製品は、初期のスマートフォンと同様な苦難を経験する可能性が高い。あったらうれしいかもしれないが、その需要が発生する背景の社会構造の変化が、自立的に発生したニーズと押し付けられたニーズとの間に発生した一種の歪みでしかないとすれば、本質的かつ十分なニーズを生みかねない可能性が高いからだ。

 ケータイによって、それを持つものが密かに望んできたことが可能になること。それは、誰かとつながっていたいといった素朴な、でも本当の需要に違いない。それはどんなことなのかを真剣に考えることが今後は重要になるだろう。

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