「インターネットバブル」を起こせない日本のVC - (page 2)

 インターネットバブル絶頂期の2000年をみると、米国のVC投資額は11兆円を超えており、まさしく桁違いに巨額の資金が、VC経由でベンチャー企業に流入していることがわかる。VC投資は、その後の2001年においては半減しているものの、やはり我が国のVC投資額の15倍以上の資金が流入していることがわかる。

 インターネットバブルが崩壊して米国のVC投資が沈静化した2002年以降の投資額を比較すると、一貫して我が国においては、米国のVC投資額の10分の1程度のリスクマネーしかVC経由でベンチャー企業に流入していない。また、データの特性から、この数字は米国の場合はVC投資のみ、かつ米国国内への投資しか反映していないのに対し、日本の場合は海外投資を含むと共に、2003年までは再生・バイアウト投資をも含む投資額であることを考慮すると、日米の格差はこのグラフに反映されている以上に大きいと考えられる。

 このようなVC投資額の日米格差は、GDP比からみても明らかである。インターネットバブルのピーク時と考えられる2000年時点で比較すると、VCによる新規投資額は米国ではGDPの1.07%を占めるが、日本はGDPの0.05%に過ぎない。その後、米国ではGDP比0.2%程度に落ち着いており、日本は0.03〜0.06%で推移している。

 また、日本のVC投資額の対GDP比は、OECDの30加盟国中、29位(最下位はスロバキア)であり、当然OECD諸国の平均をはるかに下回る。もちろん、どの程度の投資額が適正なのかに関しては大いに議論のあるところだが、我が国においては、いまだ国の経済力に見合ったリスクマネーの供給がVC経由でなされてはいないと考えるのが妥当だろう。

 この分析はあまりに大雑把であるし、使用したデータ自体が、そもそもVCの投資額を正確に推計できているのかどうかという疑問はある(VECの調査はアンケートを基に推計されている)。しかし、こうしたマクロの状況を踏まえると、我が国において1999年から2000年当時に起こったような、VC主導でのインターネットバブルが起こるとは考えづらい。言い換えれば、我が国のVCにはバブルを起こせるような力はないと考えてよいのではなかろうか。ソフトバンクによるボーダフォンの買収金額が1.7〜2兆円と噂されていることを考えると、近年の米国のVC投資額ですら、バブルを引き起こすには少なく感じられてしまう。

バブル崩壊の嘘と現実

 実際に、2000年当時に起きた我が国のインターネットバブル崩壊は、米国で起きたものとは異なる現象である。バブルが崩壊後に倒産した上場インターネット企業は1社もない。また、未上場のインターネット企業の倒産が急激に相次いだことを裏付けるような信頼に足るデータも存在しない。

 推測だが、おそらく当時はインターネット企業の倒産よりも、建設業や不動産業の倒産のほうが多かったのではないだろうか。インターネット企業の多くがベンチャー企業であることを考えれば、VC経由で流入するリスクマネーが過少だったことに救われたのは皮肉である。

 もちろん、VC経由のリスクマネーの供給が少ないのはVC業界の責任ではなく、制度的な問題であろう。その後、ベンチャー企業にリスクマネーを供給するための制度は整いつつあり、東証マザーズや大証ヘラクレスも市場として成熟しつつある。また、個人名で活躍するVCが現れ始めているのは嬉しい限りだ。ことの良し悪しは別にして、長期的に考えれば、我が国も米国型のリスクマネー供給システムに移行し、VCへのリスクマネー供給が増加すると考えられる。

 しかし、短期的には、日本のVCには産業を興すような資金力は未だにないだろう。したがって、2000年に米国で起こったようなインターネットバブルが起こるとは考えられない。もちろん、僕はバブルの再来を望んでいるわけではないが、あえて極論すれば、日本のVCはバブルを演出できるようになってはじめて「本物」といえるのかもしれない。

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