こうした理論を踏まえて、人的ネットワークによって情報を伝達する場合を考えてみたい。スモールワールド・ネットワークでは、ショートカットがいくつか設けられていることで、情報は短距離を通じて広がり、自分の周辺にいる人とのつながりも確保していることになる
。一方、レギュラーグラフのような人的ネットワークでは、すべての参加者が情報を得るには多くの経路を伝うために時間がかかり、ランダムグラフの場合はそもそも参加者全員に情報が伝わるかどうかもわからない。
このように考えると、直感的にはシリコンバレーの人的ネットワークは、このスモールワールド理論をあてはめることで理解できるように思われる。いくつか解釈の方法はあるものの、例えば、頻繁に情報を交換する起業家やVCのコミュニティ(内輪のつながりの濃密さを保持するノード同士)が、ランダムリンクを通じて他の起業家やVCのコミュニティと結びつき、迅速な情報交換が生まれ、こうした情報が起業家やVCを成功へと導く。シリコンバレーは、こうしたスモールワールド・ネットワークによって支えられているのではないだろうか。
冒頭に述べたことは、日本のインターネットビジネス業界においても、シリコンバレーのようなスモールワールド・ネットワークが生まれつつあることを予感させる。インターネットビジネス自体の認知度が上がったため、インターネットビジネスというキーワードでくくれるネットワークの参加者は、1990年代後半以降、増加の一途を辿っている。こうした参加者たちは、それぞれ様々な個別のコミュニティに属しつつも、互いに知り合う機会を設けつつある。
官庁主導の「日本にシリコンバレーを作ろう」といった試みは、これまですべて失敗に終わってきた。しかし、近年のインターネットビジネス業界における人的ネットワークの形成状況を考えると、少なくともシリコンバレーの本質であるネットワークは次第にその姿を現しつつある。地域にこだわるのではなく、こうしたネットワークがいかにして個々の企業の発展、ひいては産業の発展につながるのかを本気で考える時期が来ているのではないだろうか。
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