3つめがテクノロジーです。テクノロジーには2つあり、1つはISPや企業などがメールにIDを付け、ユーザーが送信者のIDチェックを行うというものです。例えば電話では、誰から電話がかかってきたのかがわかるCaller IDという仕組みがあります。同様にメールでも成りすましを防ぎ、正しい人から来たメールかどうかを技術的に判別することで、スパムを防ぐことができます。
もう1つが送信者の評価によるチェックです。これは送信者が正当な人物であるかを判別するものです。評価は送信者のバウンスレート(送信したメールが戻ってくる率)や他人からの評価などを使って行います。
例えばアパレルのGAPであれば、ブランドがユーザーに広く認知されており、送られたメールがスパムではないと判断できます。逆に、例えばJoeという人物がいて、いつも受信者が嫌がるような苦情の多いメールを送っているとすれば、Joeから発信されるメールはISP側でブロックすることもできるようになります。
ダブルクリックは世界的に活動を行って知見を積んでいますが、残念ながらどれか1つでスパムが全て解決するような特効薬は存在しません。これらの3つの要素を組み合わせて対策を行うことが重要だと思います。
--スパム対策についてはフィルター技術も注目されています。
特に欧州では大きな期待が寄せられているようです。しかし、これは短期的な解決法に過ぎません。IPアドレスや送信者ヘッダ、本文などをフィルタリングに利用して、ユーザーに届くメールを選別する技術ですが、これでは正当な事業者も「無料」という単語をメッセージに入れられなくなってしまう。マーケティングメッセージとスパムを必ずしも区別できないのです。
それにフィルターの精度を高めようとすればするほど、スパム送信者はフィルターを回避する手段を考えます。ですから、究極的な対策にはならないのではないかと思っています。
--送信者評価を利用してISPがスパムを判断しブロックするという話ですが、メールをブロックされた送信者が権利侵害でISPを訴える危険性はありませんか。
確かに、言論の自由を脅かすという論点はあるかもしれません。しかし、ISPは電話会社とは根本的に異なると思います。電話はすべてのユーザーをつながなければならない公共ネットワークだという考え方がありますが、ISPはプライベートネットワークです。ISP自身が、ネットワークに入る人を決める権利があるということです。
もちろんビジネスモデルとしては加入者全てをネットワーク内に入れるべきですが、ユーザーはISPのサービスに対して毎月数十ドルのお金を払っているわけです。ですから、欲しくもないメッセージが大量に送りつけられることで、必要なメッセージが埋もれてしまうということは起こるべきではありませんし、サービス提供側のISPがコントロールするべきでしょう。
--スパム対策に関して米国の成功事例があれば教えて下さい。
まず消費者の立場から言えば、自分のメールアドレスの公開先を十分に検討する必要があります。米国では、「抽選で賞品が当たる」と言ってメールアドレスを入力させ、リストを作って販売する業者が数多く存在します。信頼のおける会社にだけアドレスを公開するべきです。また、自分のサイト上にメールアドレスを公表するのも大きなリスクです。
ツールに関して言えば、フィルタリングツールをISPなどに提供する企業があります。スパムメールを1つのフォルダに集め、重要なメッセージを見つけやすくするツールの効果は徐々に高まっています。こういったツールは重要です。
しかしこれらはあくまで短期的な問題解決に過ぎません。長期的にはこれだけでは解決できないと考えます。
--長期的な解決策に関しては、まだ手探り状態だと。
そうですね。これをすればスパムが根絶できるというような特効薬はありません。解決策としては多少繰り返しになりますが、まずCAN-SPAM法などの法整備があります。業界のベストプラクティスに関しては、いくつか調査報告が出てきています。
テクノロジーの動向は他の2つに比べてゆっくりとしています。国際的に受け入れられ、採用されるような技術でないと意味がありませんので、実際に効果のある技術を作り出すには少々時間がかかると思います。それまではフィルターも一定の役割を果たすでしょう。
--国際電気通信連合(ITU)はあと2年でスパムをコントロールするという目標を立てているようです。これは達成可能でしょうか。
2年が妥当かというのは、技術的な解決法が存在するかどうかによると思います。消費者の行動に関していえば、人の行動を変えるのには時間がかかりますので2年というのは短いかもしれません。
--何年くらいは必要だと見ていますか。
送信者IDと評価という2つの技術的解決法を使って、実際に送信者が正しいIDから配信しているのか、そしてその人が正当なマーケティングメッセージを送っているのかを判別し、この2点をクリアした人物だけが消費者の受信箱にメールを送れる仕組み作りを進めているところです。
こういった取り組みによって徐々にスパムの量を減少させたいと思っていますし、18〜24カ月で実現すると思いたいですね。ただ、どのくらいの期間で達成できるかという予測は難しいでしょう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
OMO戦略や小売DXの実現へ
顧客満足度を高めるデータ活用5つの打ち手
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
企業や自治体、教育機関で再び注目を集める
身近なメタバース活用を実現する
パナソニックのV2H蓄電システムで創る
エコなのに快適な未来の住宅環境