--今をときめくソフトウェア企業の1つにSalesforce.comがあります。先月のIPOの成功によって、同社の評価は不動のものになった感じがします。Salesforceは従来のエンタープライズソフトウェアモデルはもう終わったと主張していますが、同社やその主張に脅威を感じますか。
いいえ。Salesforceのモデルは、今日のモデルの代替になるものではありません。同社は戦略的とはいえないサービスをいくつか選び、それらを汎用化していくつかの企業に提供しているにすぎない。これではCRM(顧客関係管理)製品に代わることも、スイート製品に代わることもできないでしょう。
将来的に、企業がこのモデルを気に入ることがあるなら、同様のサービスを提供する用意はあります。しかし、それはどう転んでもわれわれのモデルを脅かすものではない。顧客との接点をすべて社外に明け渡す企業があるでしょうか。ありえません。
--なぜ、今すぐSiebelの試みやSalesforceのモデルに続かないのですか。SAPにとっても成長は至上命題であるはずです。この市場は成長市場のように思えるのですが。
それはそうですが、Salesforceよりも優れた価値を明示する前に、あわてて市場に参入したのでは意味がない。まだ多少の時間はあると思います。参入をためらっているのは、巨大な市場が見えてこないからです。
--向こう5年間の経営ビジョンは完成しましたか。あなたのビジョンは前CEO、Hasso Plattnerのそれとは異なるのでしょうか。それとも危険は避け、これまでの路線を維持するつもりですか。
われわれは昨年、5カ年戦略の策定に着手しました。今後は2007年をめどに、包括的なエンタープライズサービスアーキテクチャに移行していくつもりです。われわれは現在、すべてのアプリケーションを共通のオープンなプラットフォーム上に構築しようとしています。アプリケーションをより安定したコンポーネントに分解することによって、先進的な企業にサービスと迅速なイノベーションを提供していく。体質が保守的な既存顧客と、革新性を求める新規顧客の両方を満足させられるようにするのが目標です--つまり、われわれは「イノベーションのジレンマ」の問題を解決しようとしているのです。
--イノベーションのジレンマとは面白いですね。最近のSAPはイノベーションへの対応が遅いという批判がありますが、それにはどう反論しますか。CRMやEコマースといった最近の技術分野では、SAPは革新を率いるどころか、他社の後を追っただけという人もいます。
この点については、さまざまな見方があるでしょう。外側から見れば、SAPは動きが遅いと映るかもしれない。われわれが参入したときには他社は参入済み、というケースがままありますからね。しかし、SAPが参入したということは、SAPには勝算があり、その市場で長期にわたってサービスを提供する覚悟があることを意味します。これはSAPが顧客に提供する価値の1つであり、SAPの名声を支えているものでもある。一度参入した市場から、シッポを巻いて逃げるようなことはしません。Siebelのように、ラテンアメリカ市場に進出したあとで、よい案件がないといって撤退することはできないのです。そんなことはありえない。これはわれわれのブランドの一部なのですから。
--ITの世界ではWebサービスや新しいアーキテクチャが台頭しつつあるとおっしゃいましたが、これによってSAPのライバルの顔ぶれも変わるのでしょうか。
Webサービスでは各社の事業範囲に重なりが出ますから、そうなるでしょうね。Webサービスの登場によって、SAPの事業の一部はIBMと重なるようになりました。5年前と比べると、Microsoftと重なる部分も増えました。それは事実です。もはや境界線を明確に描くことはできません。
--競合関係が変わったことで、闘いはさらに厳しくなりましたか。
変化を拒んでいれば、そうだったかもしれません。しかし、当社は18カ月も前から改善を進めてきました。われわれのリードは誰もが認めるところです。顧客もわれわれのペースを適切だと考えている。ですから、私はまったく心配していません。当社にとっては、これはチャンスなのです。
--ところで、Webサービスの何がそれほど重要なのですか。
企業は過去の投資を活かしたいと考えています。次のキラーアプリケーションを携えて、「さあ、全取っ替えだ」というわけにはいかない。企業はすでに巨額を既存システムに投じているのですから。SAPのエンタープライズサービスアーキテクチャなら、過去の投資を活かしつつ、総所有コスト(TCO)を引き下げ、柔軟性をあげることができます。
このアーキテクチャは顧客のニーズに合っているだけでなく、革命的でないことがポイントです。革命的なアイデアを持ち出そうものなら、顧客はいきり立つでしょう。企業が求めているのは投資を回収することであり、翌年の動向を読み、時代の流れに乗り遅れないようにしながら、競争力を高めることなのです。
--巨額のソフトウェア契約はもう過去のものなのでしょうか。SAPの名をとどろかせた大型のソフトウェアプロジェクトに企業が関心を持つ日はもう来ないのでしょうか。
企業は必要なものを徐々に買い足すようになっています。かつてのように、ITインフラをまるごと買い換えるわけではない。したがって、平均的な契約額は下がるでしょう。しかし、大型の契約が減る代わりに、契約件数は増えると思います。個人的には、過去はもう戻らないと思いますが、現在の状況もまもなく底を打つはずです。
--そうなれば、企業のIT投資も復活しますか。
いいえ、IT予算は増えないでしょう。企業はTCOに注目しており、どの企業もTCOを抑えようとやっきになっています。たとえば、現在のIT支出が3%なら、それを2.5%、企業によっては2%に切りつめようとしている。しかし、何が価値を生み出すのかを考えてください。それはエンタープライズアプリケーションです。ところが、この分野への投資は(IT予算の)10%にも満たないことがある。そのためハードウェアなど、すでにコモディティ化したものは今後さらに安価になり、IT予算に占める割合も減っていくでしょう。しかし、アプリケーションに対する需要は十分にありますから、この分野の支出は伸び、したがってアプリケーション市場も成長すると考えています。
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