最終更新時刻:2008年7月25日(金) 21時03分

Special Interview#7--転職力をアップする脳の鍛え方(東大大学院・池谷雄二准教授)

マイナビ転職編集部

2008/04/30 14:58  

今回は、ベストセラー『海馬−脳は疲れない』の共著者であり、気鋭の脳科学者でもある池谷裕二さんを直撃インタビュー! 脳のスペシャリストとしての見地から、モチベーションアップの方法や自分の欠点の矯正方法など、転職力アップにつながる脳の鍛え方について伺いました。

脳を鍛えるのは、外側からの刺激

池谷雄二さん

そろそろ5月ですが、この時期になると、何をするにもやる気が起こらないという人が増えますね。いわゆる五月病です。そもそも、なぜ人間はモチベーションが落ちてしまうのでしょうか?

一言で言うと、「マンネリ化」ですね。もともと脳はマンネリ化するようにプログラムされています。その脳の機能に抵抗することなく本人が従ってしまった結果が、モチベーションの低下を招くわけです。では、なぜ、脳がマンネリ化するようにできているのかというと、実はそれが人間が生活していくうえで非常に大切な機能だからなんです。

例えば、我々は普段当たり前のように水を使っていますが、よく考えてみると水というのは非常に不思議な物質です。水のように無色透明でさらさらしているものは、世の中に二つとない。実に驚くべき物質です。しかし、だからといって、毎朝顔を洗うたびに、「何だコレは!」と驚いていたのでは日常生活に支障が出ますよね(笑)。だから、脳は一度出会ったものには過剰な反応をしないように、すばやく何にでも馴れてしまうのです。つまり、人間にとってマンネリ化は必要な脳の機能なんですね。しかし一方で、この機能こそがモチベーションの低下や、やる気の減退といった状態を引き起こすのです。

すると、同じ仕事を一定の期間続けていると、モチベーションが低下するのは当たり前なんですね。

その通りです。マンネリ化するようにプログラムされているわけですから、やる気が起きないからといって、「自分はダメなんじゃないか?」と考えたり、ふさぎこんでしまう必要は全くありません。人間はマンネリ化するものだと割り切ってしまえばいいと思います。

しかし、ずっとマンネリ化した状態でいるわけにもいきませんね(笑)。脳をリフレッシュして、やる気を起こすためにはどうしたらいいのでしょう?

外から別の刺激を与えてやることですね。残念ながら、脳のマンネリ化を脳の内側から治すことはできません。手っ取り早い方法としては、知らない人と会ったり、今までとは違う仲間と付き合ってみるという方法がありますね。また、異動やオフィスの模様替えなども、マンネリ化を打破するきっかけになります。

それでもやる気が起きない時には、転職して仕事をガラリと変えるのも手でしょう。ただ、転職を考える前に、一度「自分はマンネリ化した状態に甘えているんじゃないか?」と自問してほしいですね。新しい職場へ移ったとしても、いずれ脳はマンネリ化しますから、やがてはやる気が出なくなる。その都度仕事を変えていたら、一生転職を繰り返すことになってしまいます。マンネリ化を打破するために転職するのはいいことですが、習慣化してしまうと、ずっと流浪の身となってしまう可能性があることは覚えておいてほしい。そのうえで、どうしても今の仕事や会社が自分に向かないと思うのであれば、ぜひ転職すべきだと思います。

人間は責任転嫁する動物。本当の転職理由はネガティブでも大丈夫

池谷雄二さん

確かに、今の会社や上司がイヤで転職を繰り返す求職者もいます。しかし、そうしたネガティブな理由で転職しようとする場合、なかなかうまくいかないという現実がありますが……

面接で「前の職場がイヤだったので」と言うのは良くないでしょうが、本当の理由はそれでもいいと思いますよ。もともと人間は外部に責任を転嫁するようにできているんです。仕事で思うように成果が出せないと、本当は自分の能力がないだけなのに、「環境が悪い」であるとか「上司がダメだから」というふうに、外部に責任を転嫁する。実はこれは人間が生きていくために必要な仕組みなんです。

一つ例を挙げましょう。不眠症で悩んでいる2人の患者さんに、薬効のない偽の薬を渡します。偽薬でも医者を信用している場合はきちんと効くんです。そこで患者さんに異なる2通りの副作用があることを説明してみます。Aさんには「この薬には、気持ちを静める副作用があるので、穏やかな気持ちになるかもしれません」と言って薬を渡します。一方、Bさんには「この薬には、緊張を高める副作用があるので、ドキドキするかもしれません」と言って渡すんですね。どちらの患者さんの方が、薬の効果が出ると思いますか?

「気持ちを静める副作用がある」と言われた患者さんの方でしょうか……

結果は逆で、「ドキドキするかもしれませんよ」と言われた患者さんの方が効くんです。理由は少し考えると分かります。ドキドキして眠れないというのは不眠症の典型的な症状なんですね。Bさんの場合、実際には不眠症が原因でドキドキして眠れないにもかかわらず、「これは不眠症のせいではなくて、薬のせいなんだ」と思うことによって、逆に安心して眠れるのです。人の心はラクなほうに流れようとするので、眠れないのを薬のせいにするわけです。つまり、なにかのせいにするということは、心にとって自然なことなんですね。自分のことを棚に上げて、会社や上司のせいにするのも同じと言えるでしょう。

ただし、面接の場では、もちろんポジティブな理由を述べるべきでしょう。面接は自分をアピールする場ですから、相手が求めている情報を提供するのが当然。そうでなければ、コミュニケーションが成立しません。そのためには、まずは面接官が何を聞きたいのかを想像することが大切ですね。逆に言えば、事前に面接官との問答をどのくらいシミュレートできたかによって合否が分かれる。ですから、本当の気持ちはネガティブであっても、面接用にはしっかりとポジティブな理由を用意しておけばいいのではないでしょうか。

自分の欠点を客観的に見て確かめることが大切

池谷雄二さん

転職者のなかには、書類審査はクリアできるのに面接で何度も落とされてしまう人がいます。こうした場合、どのように訓練すればいいでしょうか?

一番効果的なのは、面接の場で自分がどのように見えているのかを、実際に見てみることでしょう。手っ取り早い方法としては、面接時の自分の姿を実際にビデオで撮影して観察してみることです。挨拶の仕方から歩き方、椅子の座り方、話し方まで、つぶさに観察すると、自分の欠点が見えてきます。そうやって自分の姿を観察すれば、欠点を矯正することができるようになります。

このように、自分の状態を客観的な視点から把握することをフィードバックを加えると言いますが、これは欠点を矯正するのに非常に効果的です。というのも、人間はフィードバックをすることによってしか、自分を矯正できないからです。例えば、今この場で「血圧を10下げてください」と言われても普通はできないですよね。ところが、実際に血圧計をつけて、自分の血圧の数値を見るというフィードバックをしつつ、「下がれ」と念じると本当に血圧が下がっていきます。つまり、フィードバックがあれば、意識しても制御できないはずの自律神経でさえ、自分でコントロールできるのです。

池谷雄二さん

自分の状態を客観視する能力は、ビデオに頼らずとも訓練次第で高められます。これについても面白い実験結果があります。脳の頭頂葉という部位に角回という場所があるのですが、そこを電気で刺激すると、実に驚くべきことが起こるんです。被験者の言葉を借りると「自分の魂が2メートルぐらい上に浮かび上がって、自分がベッドで横になっている様子が見える」そうなんですね。いわゆる幽体離脱の状態ですね。つまり、人間は自分自身の姿を外側から眺める回路をもともと持っているわけです。

これはオカルトでも何でもなく、科学的な実験の結果です。一流のサッカープレイヤーなどのなかには、ピッチを走っている時に周囲がどのようになっているかを瞬間的に俯瞰して見れる人がいますね。それと同じです。こうした能力は、普段から意識して自分の状況を客観視する癖をつけることで高められます。人間には、そうした能力が備わっているんですね。

「絶対内定!」と、自分に強く言いきかせる

池谷雄二さん

脳の潜在能力を発揮するためには、どのような方法があるのでしょう?

まずは、「絶対に成功する!」と自分に宣言してみてください。求職者であれば、部屋の壁や自宅の机などに「絶対内定!」と書いた紙を貼ってみるのもいいでしょう。こういうふうに言うと、精神論のように聞こえますが、最新の脳科学では、実はこうしたことの重要性が次々と確認されているのです。

これは、今年の3月号の科学雑誌に載っていた実験なのですが、握力テストを行う際に、被験者の目の前にテレビモニターを用意し、そこに「ファイト!」とか「頑張れ!」などの文字を瞬間的に表示してみたんですね。すると、表示しない場合と比べて、握力が2倍にまで上がったのです。医学的に説明すると、普段我々が手を握り締める時には、握ろうとする力とそれを止めようとする反対の力が同時に発生しています。これは、人間が自分の体を傷つけないように無意識にかかるリミッターのようなものです。握る力だけを解放させたら、手が潰れてしまいますからね。

ところが、テレビモニターを使って、鼓舞するメッセージを一瞬見せることによって、そのリミッターを外すことができるのです。つまり、自分では意識していなくても、無意識にそうした言葉を脳に送り込むことにより、普通では考えられないような力が発揮できるわけです。ですから、受験生が「絶対合格」と机の前に書いておくのも理にかなったことなんです。科学的にも、そうしたことが立証されてきています。

最後に、転職を考えている読者へ、メッセージをお願いします。

池谷雄二さん

脳の回路は一度できてしまうと、それ自体は変化しません。ですが、その数は、「二の何乗」という勢いで増えていきます。その結果、回路全体として新しいものになっていく可能性を秘めています。ですから、自分はダメかもしれないと思っている人がいたとしても、決してそれが未来永劫その状態のままでいるわけではない。人間はいつでも変われる可能性を持っている。しかも、変わろうと意識した時点から急激に変化が始まる。ですから、皆さんも諦めることなく自分の可能性を信じて頑張ってください!

著書

脳はなにかと言い訳する
脳はなにかと言い訳する

池谷裕二(著)

出版社:祥伝社

池谷裕二さん

profile

池谷裕二●静岡県出身、1970年生まれ。脳の可塑性(機能の形が変化し、その痕跡が残り続ける性質)の研究で、各界の注目を浴びている気鋭の脳科学者。現在は東京大学大学院・薬学系研究科・准教授、科学技術振興機構さきがけ研究員(併任)として、脳科学の最先端の研究に従事。ベストセラー『海馬−脳は疲れない』など、著書も多数。

インタビュイー:池谷裕二

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