デジカメ時代の「写ルンです」作る--人気ブロガーが設立したネット家電ベンチャー、本格始動

岩本有平(編集部)2008年06月02日 19時23分

 IT関連の事業で起業する際、多くの資金が必要となることからも難しいと言われるハードウェア分野。そこに「ネット家電」を扱うベンチャー企業が切り込もうとしている。

 家電(Consumer Electronics)と革新(Revolution)を組み合わせた社名を冠する「Cerevo(セレボ:旧社名はYOMEI)」は、2007年4月の設立。代表取締役の岩佐琢磨氏をはじめ、画像共有サービス「フォト蔵」などネットサービスを手がけるウノウやベンチャー支援事業などを手がけるインスプラウト、個人投資家らが出資する同社は、2008年5月末に社名をCerevoに改め、本格的に活動を開始した。

 人気ブログ「キャズムを超えろ!」を執筆するブロガー「和蓮和尚」という顔も持つ岩佐氏だが、これまで本業では松下電器産業にて、DVD/HDDレコーダー「DIGA」やプラズマ/液晶テレビ「VIERA」、デジタルカメラ「LUMIX」などのネット連携機能の企画に携わってきた。そして起業に向け2007年末に同社を退社している。

岩佐琢磨氏 Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏

 大手メーカーでネットと家電の連携を試みてきた岩佐氏は、家電業界の現状を振り返り「ネットサービスと家電が結びついているものはあっても、ネットにつないで180度変わる製品は出ていない」と語る。そこで「ネットと家電で生活を豊かにする」というコンセプトのもと、企画から、設計、販売を自社で行うためのCerevoを設立した。Cerevoでは製造工場を自社で持たない、ファブレスと呼ばれる形式を採り、製品の製造自体は外部に委託する。

 第1弾として販売を予定するのはデジタルカメラだ。同社が手がけるデジカメには、無線LAN接続機能が搭載される。そしてバッテリーの充電と同時に、無線LANを経由して同社のネットサービス上に写真をアップロードするという仕組みを持つ予定だ。これにより、ユーザーは手動でデータを転送する必要はなく、データを保存したハードディスクの物理的な破損といったリスクも避けることができる。ネットサービス上では、画像補正のほか、ブログや画像共有サービスなどの他社サービスへのアップロード、DVDなど外部メディアへの書き込みができるようにしていく。

 岩佐氏は本来のデジカメのあり方について「写真をきれいに撮って、保存して、共有するというところまでを指すはず」と語る。だが、現状ではハードウェアはハードウェア単体で機能を完結しており、データをPCに取り込み、ソフトを使って加工し、さらに画像共有サービスなどにアップロードしなくてはならい。行程ごとに完全に製品やサービスが独立しており、連携していないのが現状だ。

 無線LAN機能を搭載し、撮影した画像をウェブ上にアップロードできるデジカメも一部発売されているが、特定の画像共有サービスにアップロードする以上のことはできない。

 これに対してCerevoの製品は、写真撮影からオンラインでの画像補整や写真管理までを一貫してサポートする。AppleのiPodがiTunesと「ハードウェアとソフトウェア」で連携することを想定した製品であるように、「ハードウェアとネットワーク」で連携する製品を提供することでユーザーの利便性を高めていくのだという。  岩佐氏は、それまで機能の複雑だったカメラが、レンズ付きフィルムの登場で誰でも手軽に使えるように変わったことに触れ、「デジカメ時代の新しい『写ルンです』を作るくらいの気持ちでやっている。デジカメのあり方を変えていきたい」と思いを語る。

Cerevoのデモ機 現在開発中のデジカメのプロトタイプ機。開発用のボードにデジカメ用のレンズや通信機器、液晶などが載っている

 デジカメ筐体のデザインは、国内のデザイン会社が担当しているが現時点では公開されていない。しかし岩佐氏が「メタリックボディーにシルバーボタンというデザインは崩したい。またボタンも大幅に少なくなる」と語っていることから、デザイン面でも既存のデジカメとは一線を画すものになりそうだ。画素数についても明らかにしていないが、性能よりも操作の手軽さや持ち運びやすさといった点を重視しているという。発売後はまず、ブログを書いている人たちに対し、ブログに写真をアップロードする手軽さをアピールしていきたいとしている。

 価格についても明言していないが、「デジカメの普及価格帯は2万円台後半から3万円台。それよりも安価で提供する予定」(岩佐氏)という。また、画像管理のネットサービスについては無償で提供するが、オプションサービスでの課金も検討している。製品の発売は2008年度内の予定で、2009年度には北米市場へも視野に入れている。

 今後の事業展開で大きな課題になるのは資金調達だ。数年前に比べるとハードウェアの生産にかかるコストは低下し、小ロットでの製造も可能になっているとは言え、在庫費用などを含めると2億円程度の調達が必要となる。そのため、同社ではベンチャーキャピタルらと話し合って資金調達を進めているところだという。

 Cerevoではデジカメ以外にも、今後さまざまなネット家電の企画や設計、販売を計画している。「本当にやるかどうかは別にして、たとえば傘立てがネットと接続してもおもしろい。『天気予報が雨ならば傘立てについたLEDがブルーに光る』というだけでも生活がぐっと便利になる」(岩佐氏)

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