Wikipediaは果たして「オープンソース」なのか

Daniel Terdiman(CNET News.com)2005年12月14日 10時00分

[ニュース解説] オンライン百科事典の「Wikipedia」は、内容の執筆や編集、監視を全世界のボランティア集団が行っていることから、「オープンソース」プロジェクトと呼ばれることが多い。

 しかし、Wikipediaを表現する言葉として「オープンソース」は適切ではない。むしろ「Free-for-all(自由参加型)」の方がしっくりくるかもしれない。

 「オープンソース」という言葉は、一般に、Linuxオペレーティングシステム(OS)のような成功しているボランティアプロジェクトを連想させる。少なくともハイテク業界では長年にわたってこの言葉をそういうふうに使ってきている。Linuxは厳格にコントロールされており、何を一般に公開するかについての重大な決断を下しているごく少数の人々がコードの中味をモニターしている。

 そういう意味で「オープンソース」という言葉はWikipediaの実態を正しく反映していない。またWikipediaの創設者自身も同プロジェクトを「オープンソース」と呼びたいとは思っていない。Wikipediaでは、参加者の中に管理者や監督者はおらず、匿名ユーザーを含む全ての人が項目の内容に修正/変更を加えることができる。

 要するに、Linuxに見られるような信頼性はWikipediaには期待すべきでない。Wikipediaは、厳格な工学プロジェクトというよりも、むしろ複数の人々が(オンライン上で)共同執筆を行うという遠大かつ極めて主観的な実験といえる。

 この点は、2つの事件からも明らかになっている。元ジャーナリストのJohn Seigenthalerは先ごろUSA Today紙に投稿した文章の中で、John F. KennedyとRobert Kennedyの暗殺に同氏が関与したとする匿名の書き込みをWikipediaが4カ月間も掲載したとして、同サイトを激しく非難した。さらにその後、MTVの元VJでポッドキャスターの草分け的存在であるAdam Curryが、ポッドキャスティングに関するWikipediaの項目のなかにあった同技術の貢献者に関する記述を削除したとして非難された。

 メディア関連の様々な調査研究やワークショップ活動を行っている米Poynterのサイト、「Poynter Online」に掲載された7日付の投稿によると、New York Timesは、Wikipediaをめぐる2件の事件を受け、自社の記者に対し、Wikipediaを情報源として使用することを禁じたという。

 New York Timesの編集者らがそのような決断を下したのも一理ある。Linuxの場合は、天才プログラマのLinus Torvaldsをはじめとする少数の管理者グループが、同ソフトに盛り込まれるコードについて最終的な決断を下しているが、Wikipediaの場合は、Torvaldsのような中心的な人物が存在しない。Wikipediaでは常に内容への修正/変更が加えられているが、テストが実施され、信頼足りうると見なされる「製品版」は存在しない。またオープンソース開発者はユーザーへの説明責任を負っており、最高の成果物を提出しなければならないのに対し、Wikipediaでは匿名投稿が容易であるため、投稿者にそのような説明責任はない。

信頼と説明責任

 最も重要な違いは、Linuxの開発に携わるプログラマが自分の貢献を世間に認められたいと考えている点だ。それにより、彼らは他のプログラマたちから信頼を獲得し、正常に動作しないプログラムを開発したら説明責任を負い、さらに条件の良い仕事を得ようとする。

 「Linuxの開発では、仲間の開発者から実力を認められるまでに2年もかかる」とMatt Asayは述べている。同氏は、オープンソース関連の一連のビジネスカンファレンスを行う「Open Source Business Conference」の創設者だ。「プロジェクトによってタイムフレームは異なるが、仕組みは基本的に同じだ。コードを提供する開発者のグループはごく少人数で構成されており、開発されたソフトはすべて各グループのリーダーまたはそのプログラムを最終的に利用する人々のチェックを受けることになる」(Asay)

 それに対し、Wikipediaには10月末時点で4万5531人の登録メンバーがおり、そのうちの1854人は10月だけで100回以上の編集を行っていた。

 Wikipediaの創設者であるJimmy Walesは、確かにWikipediaにはオープンソースのソフトウェア開発プロジェクトと共通するいくつかの特徴を備えていると考えているが、それでも同氏はWikipediaがオープンソースプロジェクトと呼ばれることを快く思っていない。「どうやら私は、この(オープンソースという)言葉との戦いに敗れたようだ」とWalesは語る。

 Wikipediaとオープンソースソフトとの大きな相違点は他にもある。

 Wikipediaは5日に、各項目の執筆者に対して、同サイトへの登録を義務付ける新たな規則を導入したが、それでも同サービスの場合は、ほとんど誰でも記事を作成し公開することが可能だ。登録にはわずか数秒しかかからず、要求されるのはユーザー名とパスワードの入力だけだ。

 実際には投稿する際に身元を明かしている投稿者も多いが、なかには名乗らない者もわずかに存在する。さらに、未登録ユーザーでも既存項目なら編集することができる。Seigenthalerに関するでたらめな匿名投稿やCurryが行ったばつの悪い編集も未登録の状態で行われた。Curryの場合は、編集を行ったコンピュータのIPアドレスが手がかりとなって、身元が割れてしまった。

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