ブログで衝突するビジネスとフェアネスのゆくえ

NHKの思いこみ報道で浮き上がった問題点

 ブログという存在が社会に浸透するにしたがって、ブログの持っている「張力」がさまざまなあつれきを引き起こしつつある。その「張力」を大まかに分ければ、ふたつに分けられる。ブログをコントロールしようという外からの動きと、そして外からのコントロールを取り除こうとするブログ内部の動きである。それは別の言い方をすれば、ブログを広告媒体として利用する動きと、そしてブログをフェアなジャーナリズムとして捉えようとする動きの衝突ともいえるかもしれない。

 2005年1月、あるウェブサイトで小さな事件が起きた。舞台となったのは、ワーキングマザーの総合情報サイトとして2004年10月に開設された「ワーキングマザーズスタイル」だ。このサイトは全面的にMovable Typeで構築され、サイトに参加している女性たちのブログの集合体となっている。運営管理人の青山直美さんは、メーカーを経てインターネットベンチャーに勤務していた女性である。育児のために退職し、その後個人で開いたアフィリエイトサイト「らむね的通販生活」の運営者として知られるようになった。アフィリエイト業界の著名人のひとりでもある。

 このワーキングマザーズスタイルを、NHKのニュース番組「特報首都圏」が1月21日に紹介した。「ブログブームでネットが変わる」と題し、隆盛を迎えているブログのさまざまな局面を伝えようとする報道だった。その中で「ビジネスの面でもブログは注目されている」という一例として、ワーキングマザーズスタイルが取り上げられたのである。番組では次のように説明された。

 『インターネットで宣伝をする会社を立ち上げようと思いたったのは、一昨年(2003年)の暮れ。ブログの登場がきっかけでした。これまでに蓄積した人気サイト運営のノウハウと、トラックバック機能を組み合わせれば、大きな情報伝達力を持つブログを作れるのではないかと考えたのです』

 『青山さんはいま、2000人以上の読者のついたブログを運営しています。同じように多くの読者を持つブログの運営者と連携して、ある商品に関する記事を双方で掲載し、お互いにトラックバックします。その記事を読んだ読者は、トラックバックをたどって両方の記事を読んでくれることが期待できるため、読者は一気に増えます。多くの読者を持つブログが参加すればするほど、情報伝達力は飛躍的に高まるため、商品の宣伝を行うビジネスにつながるというわけです』

 『成功を確信した青山さんは、会社を設立。昨年(2004年)から本格的な売り込みを始めました』

 そして青山さんが、映画配給会社から依頼を受けて「シルヴィア」という女性詩人が主人公のアメリカ映画をワーキングマザーズスタイルの各ブログのエントリーで取り上げるようになったいきさつが描かれる。映画会社の担当者が青山さんとの打ち合わせで、「こういうサイトに載せることが、女性に対してはいちばん広がりがあるかなあと思っています」とコメントするシーンや、その後青山さんがブログメンバーに集まってもらい、「シルヴィア」についてだれがどんなエントリーを書くのかという役割分担を話し合うシーンなどが映像として紹介された。

 問題になったのは、青山さんたちブロガーがなぜ映画会社に協力しているのかということについて、NHKが説明した箇所だった。アナウンサーは、次のように解説したのである。

 『美貌の女性詩人が主人公の映画を、青山さんの組織したブログのネットワークで取り上げ、配給会社から対価を得ます』『青山さんは主婦のブログ仲間をさらに増やし、このビジネスを拡大していこうと考えています』

 この報道に対して最初に火の手が上がったのは、2ちゃんねるをはじめとするいくつかの匿名掲示板だった。ワーキングマザーズスタイルに対して、「何だよ、やらせだったのか」「金もらって批評するなんて素敵ですねー」「金のために嘘書くな」「ていうか、全部金もらった宣伝なんだろ?」「こういうヤラセブログが流行ると真実が隠されてしまう」といった批判が、いくつも書き込まれたのである。

 当然のようにブログの世界でも非難の声が起き、多くのブログで批判のエントリーが書かれた。「宣伝広告の手段としてブログを活用する事例は増えていくだろうが、広告であることを隠すようなサクラコミュニティには魅力はない」など、冷静であるけれども怒りのこもった意見が少なくなかった。

 さらにワーキングマザーズスタイルの青山さんのブログにも波及した。コメント欄に「お金儲けのツールに使われていたなんて、信じられない。もうあなたのところのメルマガも解約したい」「個人の感想が企業に操作されてケースがあるというのを初めて知った」といった趣旨の不信感の表明が、立て続けに書き込まれたのである。

 多くの人たちが、このNHKの報道に対して少なからずショックを受けたようだった。批判の論点は2つあった。まず第1に、青山さんたちが映画会社から金をもらってブログを書いていたということ。そして第2に、ブログを書く前にメンバーであらかじめエントリーの内容について打ち合わせをしていたということ。こうした行動は、ブログの公平性を傷つけるものであると、人々は感じたのである。

 だが実はこのNHK報道は、少なからず誤りがあった。青山さんは話す。

 「映画配給会社からはそもそもギャラは受け取っていませんでした。またメンバーで打ち合わせたのは、メンバーがブログに大半の記事をアップした後で、『こんな記事も書けるかも』というアイデアも含めて感想を言い合っていただけだったんです」

 このあたりは彼女が1月23日に書いた「特報首都圏についての意見と反省点」というエントリーにきわめて詳しく、かつ誠実に書かれている。つまりはNHKの取材者側の思いこみから、誤った報道になってしまっていたようなのである。

 だがこのNHK報道が意味したものは、非常に大きかった。今回の件ではたしかに企業からはブログに対価は支払われていなかったけれども、今後そうした事例が本当に現れてくる可能性が充分にあることを、人々は知ってしまったからである。

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