世界が認める頭脳が集結したガレージ--検索エンジンのPFI

瀬井裕子(編集部) 松島拡2007年06月21日 15時40分

 東京大学本郷キャンパスからわずか300m。とあるごく普通のアパートに、21〜24歳の若者6人が昼夜を問わず集う一室がある。外観からは全く想像もつかないが、約10畳分の広さしかないこの部屋こそ、2006年3月に設立された、有限会社プリファードインフラストラクチャーのオフィスなのだ。

 彼らは皆、東大・京大、および同大大学院の現役学生、もしくは卒業生。得意分野はさまざまながら、それぞれがコンピューターに関するきわめて高度な専門知識と技術を有する、ひとかどの開発者である。

 2002年度未踏ソフトウェア創造事業(IPA「独立行政法人情報処理推進機構」が、IT人材の発掘と育成を目的として、一般の開発者を支援する事業)で採択、絶賛された、フリーの仮名漢字変換エンジン「Anthy」の開発者もいる。まさに、頭脳集団という表現がぴったりだ。

自分達の検索エンジンは「ダイヤの原石」

060611preferred_gaikan.jpgオフィスが入っているアパート。メンバー達は、学校帰りなどに立ち寄る。

 メンバーの多くは、未踏ソフトや、ICPC(ACM国際大学対抗プログラミングコンテスト)世界大会で実績をあげ、そこで知り合った。代表取締役・最高経営責任者の西川徹氏は、同社設立の動機について、穏やかな、それでいて熱のこもった口調でこう語る。

 「お互いの力量を認め合った、この優秀なメンバーで、何か大きなことをやりたい。いや、必ず成し遂げられると思い、私が提案しました。最初から、明確なビジネスのビジョンがあったわけではありませんが、迷いは全くなかった」

 理想からスタートした起業はまず成功しない――。そんな起業家の“常識”を、西川氏やメンバーたちが知らぬはずはない。しかし、この頭脳集団の持つ高い技術力と、それに裏打ちされた自信は、“常識”を脳裏から消し去るのに十分だった。企業からも引く手数多だったがその誘いを蹴り、リサーチャー・エンジニアの岡野原大輔氏を始めとする各々が西川氏の提案に即応。西川氏の大学院修了を機に、このアパートを借りた。

 今年に入り同社は、エフルート(旧ビットレイティングス)の携帯電話向け検索サイトに次世代検索エンジン「Sedue」を提供したほか、シーエー・モバイルとも、モバイル検索エンジンに関する技術提携を行っている。

 それにしてもなぜ、会社の核となる事業であえてGoogleという巨人の待つジャンルに挑んだのか?

060611preferred_nishikawa1.jpgコンピュータはずっと持っていなかったので、毎日ペーパープログラミングをしていました。中学受験で、志望校に受かったら買ってもらう約束だったんですが、合格したのになぜか買ってもらえず・・・。仕方なく自分で中古のFM-7(1982年発売)を1000円で買いました。

 「2004年頃、私と岡野原は未踏ソフトプロジェクトで「Sedue」の原型となる高速なコアエンジンの開発に携わり、これはビジネスになる、と確信しました。われわれの技術は、ダイヤの原石だと思ったんです。加えて、検索を軸に据えれば、メンバー全員の持つ技術力を最大限に発揮し、補完しあえる。それに、検索エンジン制作時に必要に駆られて開発した大規模データを扱う基盤など副次的に派生した技術は、他の分野でも活用できますからね」

 要するに検索は、同社にとって時代のニーズに沿い、かつ運営面でも最適な分野だったというわけだ。もちろん、Googleの存在は無視できないが、真っ向から対決しようとも考えていない。

 ゴールデンウィークの数日間だけで開発したという連想検索エンジン「reflexa」がいい例だ。実際に使ってみると、筆者のようないちエンドユーザーにさえ、これまでの検索エンジンとの発想の違いが感じられる。これを使えばいろいろなことが可能になりそうな、新鮮な感動がある。

 「Googleがまだ検索できていないデータは大量にあります。ウェブ検索など、大量にアクセスのある環境で日本語の精度を出せるよう最適化され、かつ低価格なエンジンなら、ニーズは必ずあります。それに、Googleというひとつの検索サービスに頼っている現状に危機感もある。自分たちで質の高い検索サービスを実現し、そうした環境を普及させることができれば、検索の概念そのものが変わるかもしれません」

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