EC一筋、堅実路線で得た成功--ビックタウン - (page 2)

瀬井裕子(編集部) 松島拡2007年05月23日 17時06分

営業管理ツールは社長手作り

 もちろん、全く苦労がなかったわけではない。起業から1年、経営がある程度安定し、事業規模も拡大してきたころ、深刻な人材不足、特に営業マンの力量不足が明白となった。近藤氏なら1人でクリアできる営業目標を、3人がかりでも達成できない。自ら営業に出たい衝動に駆られるが、それでは人材は育たない。1年半の間、じっと耐えた。

 結局、営業マンの育成や営業手法などの仕組みが整ったのは、2006年になってからのこと。サイボウズのwebデータベースツール「デヂエ」を使い、近藤氏自ら営業管理ツールを作成した。これにより、各営業マンの営業履歴がデータベース化され、担当交代に際しての引き継ぎの効率化や、情報の共有が可能となった。新規クライアントの獲得が増え、1カ月平均15件という営業マンも現れ始めた。

 その間も同社は成長を続け、2005年5月には、会社組織を株式会社へと変更。起業当初は3人だった従業員数も、現在31人(うち営業10人)にまで膨れあがった。同社が成功を収めている理由について、近藤氏はこう分析する。

 「eコマースで成功するには、3つの要素が不可欠です。最重要なのは、集客環境を作ることで、次に必要なのがシステム。ノウハウは実は三番目なんです。にもかかわらず、システムやノウハウしか持っていない状態でコンサルティング事業を立ち上げる企業が非常に多い。それでは絶対成功しません。我が社の強みは、集客環境とノウハウを持っていた点にあります」

 そこにシステムを補完することで、実践的な“売れるECショップ”を作りあげることを可能とした。月間売り上げ500万円から1000万円で推移していた、楽天市場のとあるショップに対し、広告の出し方から商品ページの作り方、キャッチコピーなどのアドバイスをした結果、半年足らずで月間売り上げ6000万円へと成長させたこともある。

 また、集客環境の整備と広告販売に力を発揮したのが、同社の運営するモバイル媒体だ。ECサイト側からの「会員を集めたい」という要望に応え、会員集めのためにモバイルメディアサイト「プレタウン」を設置。その後、「占いタウン」や「着メロタウン」など、次々とジャンルを増やし、各メディアにつき1万〜14万人の会員を獲得した。

 さらに2005年4月、実践的なeコマースのノウハウ獲得を目的として、モバイルショッピングサイト「ShoppingTown」を立ち上げた。自社のeコマースで実際に成功した広告を提供することで、クライアントからさらなる信頼を獲得することに成功する。

 「実際にeコマースをやっている人間の言葉は、顧客に対して説得力を持ちますからね。しかも、eコマースに関するノウハウは、1カ月前のものなど役に立たない。常に新しいものに変えていかなくてはならないんです。つまり我が社のeコマース事業は、ノウハウのインキュベーションセンターなんです」

お金は理想からは生まれない

 こうしてみると、ビックタウンの事業は、すべてクライアントのニーズから自然発生したものばかりで、“頭をひねって考えた”という無理矢理感が一切ない。成功の秘訣は、まさにその一点に尽きるのではないか。近藤氏はいう。

 「学生の時分から、何か事業を始めたい、と考えてはいましたが、当時具体的なアイディアは全く思い浮かばなかった。需要があってはじめて事業として成立するのであって、ひねり出そうとしても無理なんです。こういうことをやりたい、という甘い理想から事業を始める人もいますが、その多くは儲からず失敗している。お金を稼ぐ手段は、理想からは生まれないんですよ。私は『お金が欲しい』からスタートして、その目標を達成する唯一の道が『お客様と私の双方が儲かること』、すなわち『お客様のニーズを事業化すること』だと悟ったんです」

 その点に関しては、今年に入り新たに立ち上げた人材派遣事業も同様だ。ビックタウンの各事業部門が、全て平均した伸びを記録していることも、近藤社長の信念を端的に表した現象といえよう。

 モバイルのeコマース市場の急成長に伴い、競争は激化する一方だが、「いわゆる競合他社といわれるライバルはいない」と豪語する近藤社長。モバイルメディア会員数の伸び悩みや、モバイルへの依存度の高まり、PC向け広告の発掘など、いくつかの課題を挙げた同氏が、「目下最大の悩み」と打ち明けたのが、システム開発面での人材不足だ。

 「採用活動に力を入れていますが、なかなかいいシステムエンジニアに巡り会えない。我が社は一見IT企業ですが、実は営業会社なんですよね」

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