取締役会はなぜ機能しないのか--有効策は「演技指導」

沼田功(ファイブアイズ・ネットワークス社長)2007年06月29日 11時57分

 IPO(株式公開)を目指す企業は年々増加している。しかし、IPOを実現する企業はその一握り。IPOできるか否かはベンチャー企業が提供するサービスの魅力や市場トレンドとの一致が大前提となるが、IPOまでを最短距離で走るために知っておくべきポイントはいくつもある。IPOを実現させるためのポイントやその具体的な方法論について解説する。

経営の議論と現場の議論

 取締役会はなぜ機能しないのか──。

 株式公開準備のポイントの1つは、コーポレート・ガバナンスの中核機関である取締役会が機能することです。ところが多くの未公開会社では、取締役会は開催すらされていません。

 2006年5月に施行された新会社法では、取締役会が存在しない株式会社形態も定められ、取締役会がなくても会社が機能するケースを認めています。その一方で株式公開準備の現場では、特に公開直前の1年間は、取締役会が機能していたか厳格にチェックされます。公開会社には取締役会が不可欠なのです。

 日常的に取締役会に期待される機能の1つは、月次ベースでの予算・実績の差異分析です。公開会社は業績予想を発表します。予算と実績の差異が大きい場合、取締役会で善後策と同時に、業績予想修正の必要性を議論します。証券会社の指導や審査も、この観点から実施されますが、単純に見えてこれが案外難しいのです。

 経営の観点からは、予算と実績の差異の原因は「計画のミス」か「環境変化」のどちらかですが、実際の取締役会で議論されやすいのは、担当者の「意識の低さ」「工夫のなさ」などです。使用人兼務役員が中心の取締役会では、当事者が自らの責任を棚に上げて計画や環境に責任転嫁する態度は忌み嫌われるのでしょう。

 また現実に、担当者の態度や意識は業績を左右します。ですから経営を議論するより、現場を議論した方が建設的ですらあるのです。ただこれでは、現場から乖離した経営計画が正当化され、修正の機会がありません。業績見通しも誤り続け、投資家からもいずれ見放される会社となります。

 こうした場合に私は、取締役会の「演技指導」が有効だと思います。取締役会の形から入り、取締役への期待を肌で学ぶ機会をつくります。そして、演技のノウハウを社内のどこかに残します。どこに残すかは社内の組織や人材次第です。その上で、あとは実際に運営しながら、その会社にふさわしいガバナンスのあり方をともに考えます。

 例えば「上級使用人会議」と「取締役会」とを何らかの形で分離し、会社の考える建設的な現場運営と、まだ見ぬ「投資家」の求める経営とを、同時並行的に機能させる組織づくりを模索する場合もあります。

 大局的に経営を見る役割は、社外取締役・社外監査役が適切でしょう。ただ彼らの意見に基づきトップをけん制するのは、トップとの一体感、濃密な人間関係を持つNo.2が適する場合も少なくありません。「ご意見番」という言葉がありますが、これは制度というより人間的修養を基盤にしたガバナンスなのでしょう。

 取締役会メンバーの力量や個性、人間関係の読み方が制度設計のポイントとなることも多いのです。フォーマルな取締役会をインフォーマルな見地から設計するので、すべてを制度では担保できないという危うさを孕みますが、そうした芸当ができないと、「投資家」を知らない未公開会社に取締役会を根付かせることは難しいのです。

記事提供:「VFN」(発行:プレジデンツ・データ・バンク株式会社)

ファイブアイズ・ネットワークス沼田功(ぬまた・いさお)

1988年東大文卒。同年大和証券入社。1999年大和証券SBキャピタル・マーケッツ(現大和証券SMBC)を経て、2000年に退社し独立。41歳。東京都出身。

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