物事を突き詰めて考え抜ける人こそが、真の信頼を勝ち取れる(第6回:伊藤昇) - (page 3)

お客様の幸せと社員の幸せ

--ポジションが上がるとともに、海外とのやり取りも多くなるかと思いますが、英語に関してはどのように取組んでいらっしゃいますか?

 勉強せざるを得ない状況です。でも、勉強というよりも、現場で鍛えられているという方が多いでしょうね。海外の上司からあらゆる角度から鬼のように突っ込まれて、それに回答しなければならないハードな状況が多いですから(笑)

 1つ言えるのは、綺麗な英語を使うことよりも、言いたいことを簡潔に伝えることの方が重要なんです。それに、グローバルコミュニティでは話した者が勝ちです。たとえ綺麗な英語が話せても、お願いしたいことや伝えたいことが明確にないことの方が問題だと思います。

 結局、英語の問題は英語自体の問題というより、相手の立場でどれだけ分かりやすい自己表現ができるか否かという問題に帰結するのではないでしょうか。

--今、日本IBMはバリューインセンティブプログラムというお客様に一番近しいところにいるIBM製品販売業者にインセンティブを出すというプログラムを導入したということですが、このプログラムについて思い入れはありますか?

伊藤氏 「周りの協力を得られないのは何故だろう」「協力を得るための解決策はなんだろう」――。徹底的に考え抜かない限り、普段の生活の中で起こるすべての問題に対するより良い解決策を見つけ出すことはできない

 これはアメリカのプログラムを僕が日本に取り入れたのですが、そもそもの着想の原点は「現場にいる人が一番偉い」というところにあります。やはり、お客様に対して一番考えて行動している人が評価されるような制度がないと、会社組織として健全ではないと思うんですよ。

--これまでは営業として現場の第一線で活躍してこられて、今は管理職として第一戦からは退いた形になっていると思います。これまでお客様との関係の中で得てきた刺激ややりがいといったモチベーションを、今はどのように維持しているのですか?

 今でもビジネスパートナーも含めた“日本IBMのお客様”にはかなり訪問していると思いますよ。確かに、当時と比べて一件一件のビジネスを契約して一喜一憂するという面白さはなくなりましたが、今僕の下にいる100人の部下が日々成長する姿を見ているのは面白いですよ。

--今100人とおっしゃいましたが、その方々とのコミュニケーションはどうされているのですか?

 紐解くと、「お客様が幸せになるためにはどうすればいいのか」ということと、「社員が幸せになるためにはどうすればいいのか」という観点では、方法論こそ異なりますが、軸となる基本理念は一緒だと思うんですよ。我々が提供するサービスによってお客様に喜んでいただければ、我々にもそれ相応の利益と仕事のやりがいや達成感となって跳ね返ってくるわけですから、具体的な手法は違っても、最終的に目指している目的は両者間で変わらないということです。

 具体的な社内でのコミュニケーションということであれば、僕に付いてきてもらって一緒にお客様を回ってもらうだとか、1対1のミーティングを持つだとか、他の人がやっているようなことも含めて色々取組んでいます。 あとは、常に笑っていることですかね(笑)

--いつも笑っている。伊藤さんらしいですね。さて、伊藤さんは悩むときは思いっきり悩むタイプだと僕は以前一緒に仕事をして思っています。では、そのストレス発散の方法は?

 一つには、忘れることですよね。悔しいことは結構覚えているけれども、楽観的なんですよ。

 ただ忘れるとは言いましたが、まずうまく行かないときは徹底的に考えるようにしています。営業の時は、自分の提案が悪ければそれを変えれば良かったけれども、今は自分だけが変わっても周りの協力がなければ変わらないことの方が多いんですよね。

 ですから、「周りの協力を得られないのは何故だろう」「協力を得るための解決策はなんだろう」――と徹底的に考えるんです。徹底的に考え抜かない限り、普段の生活の中で起こるすべての問題に対するより良い解決策を見つけ出すことはできないのではないでしょうか?ましてや、一瞬で解決策が見い出せることなど皆無だと思っています。

 個人でもチームでも、何らかの目的に向かって手段を決定するときは、どれだけ考え抜かれたかどうかでその手段の価値は決まると思うし、それによってどれだけ高付加価値の手段を提案できるかどうかが、相手から得られる信頼の深さを決定付けることなのではないでしょうか。

--僕はこれまで、伊藤さんは日本IBMの中でも「変わり種」という見方をしていたんですが、今の話を聞くと社訓である「Think!」を徹底している代表的な社員なんですね。それでは、今後どのように日本IBMを変えて行きたいと思っていますか?

 パートナーさんから信頼されるアドバイザーになれるか、お客様に信頼される営業になれるかどうかが、今後の日本IBMに求められていることと思っています。信頼を1つでも得ることができれば、成功体験として良い流れを生み出すことができると思っています。信頼できる人間を増やすことこそ、会社にとっても社員にとってもゴールなんだと信じていますから。

--いつもこのコーナーの取材で聞いていることですが、尊敬する人はいますか?

 父親ですね。自分の考えをしっかり持っていて、物事を複眼で見る能力に長けていますから。

 また、芸能界という業界にいながら、欲に惑わされず、いつでも自身の信念にぶれがないというところからも見習うことが多いです。

--好きな本はありますか?

 元々スポーツが好きですから、サッカーの三浦知良や野球の桑田真澄・清原和博や野茂英雄など、僕と同世代の人たちの自叙伝から刺激を受けることは多いですね。何とか論というものよりは、現実にあった苦労話の方が示唆に富み楽しいですね。

--これまでの話を聞いていて、やはり根底に相手が幸せになるために色々と考えるという姿勢が伊藤さんのすべてなんでしょうね。日本IBMの中で、40歳で理事になったということが、若手に希望を与えているのではないかという気もするのですが。

 理事になった時に、社内から色々とメールをもらいました。一番多いのは30代前半の若手からでしたね。若手に対しては、チャンスがあるということを示せているのかもしれません。今後はもっとチャンスが増えてくると思いますけどね。

--最後に、伊藤さんにとってIBMの良いところを教えて下さい。

 さまざまな人と仕事ができるというところでしょうね。特に今は、グローバルに仕事をしていてさまざまな国籍の人と仕事をすることが多いのですが、それが本当に面白い。一日かけてのミーティングやディベートなど、かなりタフなシチュエーションも多いのですが、それはそれで楽しんでしまっています(笑)

Venture BEAT Project
こだまん(児玉 務)

1997年日本アイ・ビー・エム入社。ベンチャー企業との協業、インターネットプロバイダー市場のマーケティングを経て、2000年よりナスダック・ジャパンに出向し、関東のIT企業および関西地区を担当。帰任後は、IBM Venture Capital Groupの設立メンバーとして参画し、その後退職し米国へ留学。パブリックラジオ局(KPFA)での番組放送の経験を得て帰国後の現在は、「“声”で人々を元気にする」をモットーにラジオDJ、イベント司会、ポッドキャスティングの分野で活動中。「Venture BEAT Project」プランニングメンバー。好きな言葉は「アドベンチャー」。

ブログ:「Edokko in San Francisco 2007

趣味:タップダンス、ビリヤード、会話、旅、スペイン語

特技:アメリカンフットボール、陸上競技100m

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