Target 2020

一気に8Kまでを見据えた放送サービスの将来像を描け--2020年の展望と課題

 「東京オリンピック・パラリンピックの数多くの中継が4K・8Kで放送されている」(2014年9月公表の総務省「4K8Kロードマップに関するフォローアップ会合」中間報告より)。2020年に向けたさまざまな動きを探る上で、これほど明確なビジョンが示されている例は多くあるまい。一方で現状の4K、その先にある8Kを見据えた際、軽視できない課題が山積するのも事実。はたして放送は、どのような姿で2020年を迎えるのか。一般社団法人次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)事務局長の元橋圭哉氏に聞いた。


2020年までの放送ロードマップ

CSに続きBSでも4K放送開始、8Kへのロードマップとは

--2014年9月に続き、この7月にも4K、8K推進へのロードマップの具体化、加速化そして課題解決などを検討するフォローアップ会合の第二次中間報告が予定されていますが、そのポイントとなる部分は。

 前回示されたロードマップでは2016年、つまり来年には4K・8K試験放送の開始を計画しています。これは衛星セーフティネット(地デジ難視対策衛星放送)終了後のBSの空きチャンネルを利用するもので、8Kならば1チャンネル、4Kならば最大3チャンネルの放送を時分割(複数のデジタル信号を時間的に配列し、1つの伝送路で伝送すること)で実施することが予定されています。間もなく示される予定の新しいロードマップでは、前回明確に示されなかった、2018年段階の実用放送(本放送)時で4Kや8Kが何チャンネルくらいで開始されるのか、などの指針が示される可能性があります。

--4Kに関しては試験放送、2015年3月からは実用放送も開始されていますが、2016年スタート予定のものとの違いは。


一般社団法人次世代放送推進フォーラム事務局長の元橋圭哉氏

 8K放送が加わることが最大の違いですが、それ以前にBSで4K放送を実施するのは初めてになります。これまでの試験放送や実用放送はすべてCSで行われてきたものであり、現状市販されている対応端末もCSを対象とした製品(注:このほかにケーブルテレビやIPTVによる4K実用放送も2015年12月に開始される予定)です。こうした段階的なスタートが視聴者、国民の皆様にとってわかりにくい状況を生み出してしまっていることは我々としても心苦しい面がありますが、2016年にスタートするBSの4K、8K試験放送、その後の実用放送を視聴するためには、それに対応したチューナを新たにお求めいただくことになります。

--その先となる2018年の8K実用放送を見据えると、いわゆるBSの偶数チャンネル(左旋)を利用した場合に備える新たな受信アンテナが必要になる可能性も指摘されています。

 ご指摘のとおり、実用放送を実施するにあたってはさらに新たなチャンネルの利用が検討されています。BSには現時点で2016年に試験放送に使用する中継機以外、そのまま4K、8Kの放送に使えるような空いている帯域はありませんから。方法論として、すでにサービスを開始しているBSチャンネルの一部帯域を返上してもらう帯域調整という考え方があり、まずそれに踏み込んだ提案が盛り込まれるか否かが新ロードマップのポイントとなります。

 2000年に24スロットを割り当てられた事業者から一部を返上してもらい、それらを合わせて48スロット程度の空きを用意できれば、8Kで1チャンネル、4Kで3チャンネル分になります。しかし、それと2016年からの試験放送で使っていた分とあわせても、4Kで6チャンネル、8Kにすると2チャンネル分にしかなりません。

--そこで左旋利用の話がでてくると。

 左旋とは、東経110度衛星から送信される左旋円偏波による放送のことで、4K、8Kなど新たなテレビ放送で利用される予定になっている、いわば全く新しい土地になります。ただ、電波を届けられる向きが従来のBS放送とは逆になるため、家庭での受信対応が課題です。

 いわば土地の用意はできても、今はまだ道路も水道も電気も来ておらず住みにくい状態。このゼロベースの土地利用に関しては、現状のMPEG-2方式のハイビジョン放送を受信者に混乱、迷惑を与えないようにしながら最新のHEVC方式に切り替えていくことも含めた、中~長期の衛星放送のあり方に踏み込んだビジョン、移行計画が必要となりますが、今回のロードマップでそこまで踏み込んだ方針が出される可能性は残念ながら極めて低いと考えられます。

--つまり、左旋利用を含めた本格的な次世代放送サービスが整うタイミングは2020年ではないと。

 4K・8Kサービスの本格化と現行BSチャンネルのHEVCへの移行、110度CS放送の完全HD化などを含めた衛星による次世代放送サービスが完成するのは、移行時のサイマル放送期間を考慮すると2020年代の後半から2030年くらいになるのではないでしょうか。

 各放送事業者やテレビメーカー、スカパーJSATなどのプラットフォーム事業者の戦略を後押しする上では本来、2025~2030年ごろを目途にした年次計画もあわせて示す必要があると個人的には考えますが、現状は「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催」が大きな関心事となっていることもあり、ロードマップそのものがやや近視眼的になっている面があるのは否めません。

--仮に2030年を頂上とした場合、2020年は何合目程度になるのでしょうか。

 2018年に実用放送が開始しているならば、2020年は通過点、4Kにしろ8Kにしろ3合目付近、山を登り始めたところ、と考えるのが妥当ではないかと思います。

 特に8Kについては家庭での普及が端緒についた段階である可能性が高く、電気店の店頭や全国のNHK放送局、ショッピングモールといった商業施設など、限定された場所でのテレビや大型スクリーンでの視聴機会がメインになるでしょう。もちろん8Kテレビも市販されているでしょうから、4K放送をしのぐ圧倒的に魅力的なコンテンツが8K放送で届けられれば、普及が一気に進むということも期待しています。

8Kは圧倒的な臨場感で実況いらずのスポーツ中継も

--改めて、8K放送は2K、4Kとどれくらいの違いが出るのでしょうか。

 最初に申し上げておきたいのは、4Kにしろ8Kにしろ、それをやること自体が目的になってはいけない、目的にしてしまってはいけないということです。

 4Kや8Kは、あくまで放送本来の機能であるジャーナリズムやエンターテインメントを含めたクリエーティブを高めていく手段です。これまでのテレビである2Kの映像で表現できなかったものがどのように表現できるのか。2Kと4Kと8Kは、単純に画素が違うわけですが、もちろん、それだけにとどまるものではありません。

 現状の2Kと4Kを比較すると、例えば演出におけるカット割り、絵の構図やワンカットの長さ、映像モンタージュには大きな違いが出ています。

 番組の素材や演出意図にもよりますが、より高画質、高精細な映像においては、細かなカット割りで画面をたたみ込んでいくよりも、広い視点の映像をゆったりと見ていただいた方が楽しめることが多い。4Kと8Kの比較においても同様のことが言えるでしょう。このため制作側の演出次第で、視聴者にとってはテレビの楽しみ方が変わってくる面があろうかと思います。

 また、日本では4K・8Kの超高精細度に注目した議論に集中しがちですが、画素数だけでなく、これまでの2Kと違ってダイナミックレンジや色表現の幅や深みが広がり、階調表現がより滑らかになるなど、より豊かな映像表現が可能になることに欧米の映像制作者や放送技術者の期待が集まっています。クリエーターにとっては大きなチャンス、チャレンジの舞台になると思います。

--6月に開催されたスカパー!の4Kメディアセッションにおいても、スポーツ中継などにおける「楽しみ方の違い」を紹介する場面がありました。

 8K映像ともなれば、4K以上に全体を俯瞰した映像でも楽しめるようになるため、よりスタジアム観戦に近い、臨場感のある中継を楽しめるようになるでしょう。そうなると、視聴者自身が全体の状況を把握しやすくなるため、例えば、スタジアムで観戦している臨場感そのままの、実況のない中継も1つのスタンダードになってくるかもしれません。

 一方、これまで実況に用いられてきた膨大な試合に関するデータを、8K映像と組み合わせて「Hybridcast」などのツールで視聴者に届けることができれば、現在の放送サービスとは異なる、次世代型放送サービスならではの楽しみ方の1つとなってくることもあろうかと思います。

--一方、4Kが走り始めた現段階で8Kの話題があがること自体を拙速と捉える意見も聞かれます。

 放送事業者や家電メーカーだけでなく、さらに視聴者の方々においても、本音としてそうした考えがあることは承知しています。私個人としても思うところが全くないわけではありません。その上であえて、その意義を説明するのであれば「8Kにチャレンジしてこそ拓ける日本の未来がある」ということだと思います。

 すでに世界的な競争が激化し、アマチュア、セミプロの世界においても活用が進む4Kにとどまっていては、クリエーティブの面でも機器の開発、普及の面でもこの分野のトップランナーにはなりえない。4Kのみで満足せずにあえて8Kにチャレンジしていくことで、日本の映像文化やそれを支える技術、産業が世界をリードする形に持っていくことができる。その点にこそ、8Kに取り組むべき価値があると考えます。

 世界には8Kの魅力に気がつき始めているITベンダーも出てきています。せっかく私たちにポテンシャルがあるのにそのアドバンテージを活かさない手はないでしょう。

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