電子書籍ビジネスの真相

まだ電子書籍で消耗してるの?--電子書籍が嫌われる3つの理由を考えてみた(前編)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2016年01月22日 12時00分
(C)Eyecatch Photo: NOBU | Dollar Photo Club
(C)Eyecatch Photo: NOBU | Dollar Photo Club

 こんにちは。ちょっと前になってしまいましたが、新年早々、大きな爆弾が落ちてきたみたいで。


 放送を見た方によると、なんで「電子書籍なんて駄目」なのか、「文庫まで駄目」なのか、さほど突っ込んだ説明はなかったようですし、一種の「ネタ」だったのかもしれません。

 とはいえ、個人的に「ああ、やっぱりそうなんだ」と腑に落ちたのも事実。

 なにかというと、この世には、「電子書籍が大嫌い」な方がけっこういらっしゃるということ。

  • 「電子書籍なんか本じゃない!」「紙の本の方が素晴らしい!」
  • 「電子書籍のせいで、本が売れなくなる」
  • 「本屋さんが減ったのは、電子書籍のせい」

 ……などなど、悪口(?)はけっこう聞くわけです。

 なぜ、そんなに嫌われるのか……。

 いつもは「電子書籍推し」のスタンスの本コラムですが、今回は、ちょっとサイドを変えまして、「電子書籍が嫌われる理由」のうち、非常によく目にする次の3つについて考えてみたいと思います。

  • 読みにくいから
  • 使いにくいから
  • 紙の本に愛着があるから(紙の本が売れなくなってしまうから)

電子書籍が嫌われる理由その1:読みにくいから(目に悪いから)

 「電子書籍『なんか』読まない」と公言する方が、まず持ちだすのが、「読みにくいから」という理由です。

 「読みにくい」といってもいろいろありますが、まずは、「画面がギラギラして見にくい」。特に年長の方から聞く意見です。つまり、「電子書籍を読むと疲れる、あるいは疲れそう」「目に悪そう」という不満ですね。

 ここでいう「画面」というのは、スマートフォンやタブレット、PCの「液晶画面(LCD)」のことだと思います。確かに、紙と比べてしまうと、常時バックライトが点灯している液晶ディスプレイは、いかにも目の健康に悪そうです。

 エネルギーが強く、瞳の奥まで届くことで、目にさまざまな悪影響を及ぼすという説もある「ブルーライト」が、現在主流となっているLEDバックライトでは大量に照射されると指摘されています。ブルーライトが健康にどんな影響を与えるかは、まだ完全に究明されたわけではないようですが、不安ですよね。

 そう考えると、「液晶画面が疲れる」から「電子書籍は読みにくい、読みたくない」という方がいるのはわかります。実際、筆者もほとんど1日中、液晶画面を見ていまして、目の疲れを実感しています。

 仕事ならともかく、読書のようなフリータイムまで液晶画面を見たくないよ、と。

 ただ、よく考えると、これは電子書籍の性質というより、現在、電子書籍の主要なメディアとなっているスマートフォンなどの特性なんですね。

 電子書籍は、スマートフォンやタブレットなどでも読めますが、「電子書籍専用端末(電子リーダー)」と呼ばれるデバイスで読むこともできます。

 アマゾンのKindleですと、「Kindle Paperwhite」「Kindle Voyage」、楽天koboですと、「Kobo Glo」「Kobo Aura H2O」「Kobo Glo HD」、BookLive!では「Booklive! Reader Lideo」などが発売されています。

左から、紙の本、電子ペーパーを使った電子書籍専用端末(Kindle Paperwhite)、液晶を使ったタブレット(Kindle Fire) ※後述の(3)の論文から
左から、紙の本、電子ペーパーを使った電子書籍専用端末(Kindle Paperwhite)、液晶を使ったタブレット(Kindle Fire) ※後述の(3)の論文から

 これらの端末は、ディスプレイに「電子ペーパー(EPD)」を使っています。「電子ペーパー」は小さなカプセルに閉じ込めたインクを、外から電気の力で動かすことで「白・黒」を表現する表示デバイスです(現在は、基本的にモノクロです)。

電子ペーパーの仕組み(Public Domain Content by Run! at Wikipedia)
電子ペーパーの仕組み(Public Domain Content by Run! at Wikipedia)

 一般的な液晶が背後から照明をあてないと表示できない「透過型」表示機器であるのに対し、電子ペーパーは外部の光で表示ができる「反射型」表示機器です。

 電子ペーパーは表示の仕組みが「紙の本」と似ているので、目に与える影響も、紙の本に近いと言われています。つまり、電子書籍だからといって疲れるとか、目に悪い、といった可能性が低いのです。

 最近の電子リーダーは、電子ペーパーのサイドに照明をつけた「フロントライト」タイプが主流です。明るい日中は「オフ」にしておいて、暗い室内や夜間には、「オン」にすると、電子ペーパーの「後ろ」ではなく「前」から明かりが当たります。

 液晶が「後からの照明」=「バックライト」を採用しているのに対して、電子ペーパーは「前からの照明」を採用しているので「フロントライト」です。このあたり、電子ペーパーデバイスを使ったことがないと思われる評論家やコメンテーターが、よく混同しているので、要注意です(電子ペーパーを「液晶」と書いている人すらいます)。

 このように「紙の本」に近い特性を持つと言われる電子ペーパーですが、電子書籍で広く使われるようになったのは、2007年の初代Kindleから。まだ10年も経っていないので、本当に目に優しいかどうかは、決着がついていません。

 ただし、筆者の個人的な経験からは、特に太陽がさんさんと照りつける屋外のような明るい環境では、非常に見やすいと感じています。次に、適切な明るさの室内でも、快適です。

 逆に夜の寝床など、周囲の照明を消した状態で、フロントライトをオンにして読むと、液晶と同じくらい疲れを感じることがあります。表示デバイスそのものよりも、周囲との明暗差があるとダメなようです。

 あと、液晶と比べた決定的な弱点は、表示・反応速度が少し遅いこと。タッチ操作に一瞬遅れて画面が切り替わったりするので、マンガなど、ページ送りを頻繁にするようなコンテンツには向いていないといえます。

 ただし、文芸、評論など、文字ものを読むときは、この「鈍重」さが逆に功を奏する感じもあります。スマートフォンなどと違って、SNSやゲームなどができないのも美点です。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]