インドの本命オンライン動画教育サービス「Byju's」--英語圏にも展開へ

 近年、インドは人材輩出国として注目を浴びている。GoogleのCEOであるサンダー・ピチャイ氏や、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏、先日ソフトバンクを退任した、ニケシュ・アローラ氏らはその代表格だ。

 彼らのようにグローバルで活躍するトップ人材がインドから輩出される理由の1つには、厳しい「受験戦争」がある。インドのトップ大学として知られるインド工科大学(IIT)の倍率は約53倍といわれ、東大の3倍と非常に競争率が高いことがわかる。

 IITを卒業すれば就職に困らないどころか、新卒で1000万円以上のオファーを受けられる場合も珍しくない。そのため、親だけでなく親戚や地域住民が子どもの受験を支援したり、土地を売って家庭教師を雇う親までいる。

 トップ大学に合格するためには、教育レベルの高い私立高校に入学するか、大学受験予備校に通う必要がある。しかし、私立高校の学費は高く、大学受験予備校は都市部にしかない。郊外から予備校に通おうと思ったら、片道2~3時間かけて通学しなければならない。

「Byju’s」
「Byju’s」

 収入や住む場所によって受けられる教育の質に差が生まれてしまい、意欲の高い学生が報われない現状がある。こうした問題の解決に取り組む、いくつかのスタートアップがインドで注目を集め始めている。中でも最も勢いがあるのが、オンライン動画教育サービス「Byju’s」だ。

インドの受験勉強をサポートする動画教育サービスとは

 Byju’sは2008年に、社名の由来でもあるByju Raveendran氏によって創業された。当初はCAT、GRE、GMAT、JEEといった大学入試や公務員試験対策の予備校としてスタート。その後、試験対策だけでなく、中学生や高校生向けの教育サービスも開始し、ブランドを確立してきた。

Byju Raveendran氏
創業者のByju Raveendran氏(引用元:YourStory)

 2015年秋にアプリの提供を開始し、その後急成長した。AndroidとiOSに対応したアプリは、1年目で500万ダウンロードを達成。課金ユーザーも20万人を超え、6月度の売上は3億ルピー(約4.5億円)以上となっている。

 3月には、セコイア・キャピタルとベルギー系ファンドSofinaから7500万ドルを調達。合計調達金額は9000万ドルと、インドのEdtech(教育テクノロジ)企業の中では群を抜いている。

 Byju’sの最大の特徴は、講師が映像授業の中で3Dコンテンツを使って授業の説明をすることだ。こちらの動画をご覧いただきたい。


 従来の映像授業には、単に講師の授業を録画したものと、アニメーションで授業をするものがあったが、Byju’sはこれら2つをミックスした。こうすることで、学生ユーザーが楽しく、質の高い授業を受けることができる。他にも、単元ごとにオンライン上でテストを受けることができ、その結果を元にパーソナライズ化されたフィードバックやアドバイスを受けることもできる。

 どうしても理解できない問題があれば、チャットやビデオ通話でチューターへ質問可能だ。価格も年間平均1万1000ルピー(約1万6500円)と従来のオフライン予備校と比較して非常にリーズナブルである。

 教育熱心なインドの親は、「子どもの一生を左右する教育は、信頼できる教育機関で受けさせたい」という思いが強い。Byju’sでは子どもの学習状況を親が確認できるようになっており、親がサポートできる。こうした機能や、資金調達後に展開した大規模なテレビCMなどが親の気持ちをつかんだ。

 Byju氏は、Byju’sを世界最大のEdtech企業にすべく、1年半以内に海外展開を進めると発表している。すでにUAEには進出済みで、今後は英語圏の米国や英国への進出を計画しているという。

 これまでインドのEdtech市場は注目を集めつつも、サービスの収益化や大規模な資金調達に成功した企業はいなかった。Byju’sの登場が、インドの市場の起爆剤となるかもしれない。

 なお、Byju’sは2016年8月に、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ氏と妻のチャンによるChan Zuckerberg Initiative(CZI)をリードに5000万ドルの資金調達を発表した。CZIにとってByju’sが初めてのアジア投資となる。「私は教育のパーソナライズ化とそれが生み出す違いを前向きに捉えている。Byju’sのサービスを世界中の教師や子どもたちの手に届けることをサポートしていきたい」とザッカーバーグ氏はFacebook上で話している。

(編集協力:岡徳之)

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