歴史的悲劇が育てるカンボジアのたくましいバイク便スタートアップ

モバイルファースト世代が盛り上げるカンボジアのIT産業

 ASEAN諸国には、インターネットを初めて利用した端末が、PCではなくスマートフォンや携帯電話という「モバイルファースト」な人たちが多いことで知られているが、人口の70%が30歳以下と若者が多いカンボジアも例外ではない。

 カンボジア電気通信規制庁(TRC)の発表によると、2015年のモバイル端末の普及率は人口に対して149%と高く、モバイル端末が国民のネット利用や生活に欠かせない存在になっていることが伺える。

 また、同国ではFacebookがもっとも利用されているSNSであり、同社の統計によると2014年における国内ユーザー(142万人)の70%は18~24歳が占めている。つまり、人口の大半を占め、またネット利用が盛んな10~20代の若年層をいかに取り込めるかが、同国でITサービスを成功させる鍵となっている。

 一方で課題もある。それは、ビジネス経験が豊かな人材が不足していること。1970年代にポル・ポトを指導者とする政権下で知識人が大虐殺された歴史的な出来事により、日本であれば中間管理職の層にあたるような30代後半の世代が育っていないためだ。その結果、20代の若手世代にビジネスのノウハウが継承されにくい状況にある。

 こうした課題は、特に産業自体が若いIT業界において顕著だ。それを克服しようと、近年カンボジアではビジネス経験豊富な人材からノウハウを学んだり、投資家とのつながりを作るための機会を若い人たちに提供したりするテックイベントが活発に開催されている。こうしたイベントは、ITビジネスのエコシステムを形成する上でも重要な役割を果たしている。

カンボジア初のバイク便オンラインサービス

 そんな勃興しつつあるカンボジアのスタートアップエコシステムから生まれた、20代前半の若者たちが牽引するサービスを紹介したい。

「Joonaak」のウェブサイト。現在、サイトには必要最低限の情報しか書かれていないため、改善の余地がある
「Joonaak」のウェブサイト。現在、サイトには必要最低限の情報しか書かれていないため、改善の余地がある

 2015年にカンボジアで始まったバイク便のオンラインサービス「Joonaak」は、世界110カ国で開催されている3日間の起業家育成イベント「Startup Weekend」から生まれた。Kong(Jay)Soliya氏(以下、Jay氏)を中心とする4人のカンボジア人が創業した。

 Joonaakは現在、ウェブブラウザのみに対応している。ユーザーはサイト内の問い合わせフォームか電話で見積もりを取得して、サービスを利用する。料金は月額5ドルの会員登録料に、回数に応じて変動する配達料が加わる。1カ月ごとに40回までは1回につき1.5ドル、それ以降は1.3ドルとディスカウントされる。速達サービスも提供しており、3つある配達区間に応じて料金が変動。代金引換のオプションサービスも無料で提供している。

バイク便の写真(Joonaak公式サイトより引用)
バイク便の写真(Joonaak公式サイトより引用)

 Joonaakが現れる前、カンボジアには少量の荷物の配達を受けつける配送会社は存在しなかった。そのため、自社で配送する体制を整えることが難しいメーカーや小売業の企業にとっては販路が限られていた。Joonaakはそうした中小企業の可能性を開拓した存在といえる。2016年6月には、モバイルアプリも提供する予定。ユーザーはドライバーをトラッキングできるようになるため、利便性と信頼性がより高まるだろう。

提供予定のモバイルアプリ版サービス
提供予定のモバイルアプリ版サービス

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