東南アジア全域をカバーするソーシャルアナリティクス企業「ThoughtBuzz」

 この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。

 デジタルマーケティング企業We Are Socialの発表によると、シンガポールでのSNSアカウント所有率は96%、インドネシアは98%、タイは97%と軒並み高い。またニールセン シンガポールが2013年9月に発表した調査結果にも裏付けされる通り、東南アジア全域で最も人気のあるソーシャルメディアは「Facebook」、局所的にタイでは「LINE」がシェアを拡大中。スマートフォンの普及も手伝ってか、同地域におけるソーシャルメディアの存在感は高まるばかりだ。

  • 「ThoughtBuzz」

 そうした市場背景から、東南アジアでは「ソーシャルアナリティクス」の需要が拡大している。消費者が自社製品をどのように感じ、評判を拡散しているのか。その知見をマーケティングに活用したい企業が増えている。そんな東南アジアの多くの有名企業から、ソーシャルアナリティクスを任されているのが、デジタルエージェンシー「TO THE NEW」傘下の「ThoughtBuzz」だ。

東南アジア各国の言語とコンテクストに対応

 ThoughtBuzzの提供するサービスでは、サードパーティのAPIに頼らずに、ソーシャルメディアやブログ、フォーラム、アマゾンなどのレビューサイト、Q&Aサイトなど、ありとあらゆるウェブへの書き込みを収集、分析することができる。また英語はもちろん、中国語、日本語、韓国語、タイ語、インドネシア語、マレー語など幅広い言語に対応している。まもなくベトナム語にも対応するそうだ。

 同社はシンガポールのSingapore Management University(SMU)を卒業したAnshul Jain氏と、インドのS. P. Jain Center of Managementを卒業したAshok Patro氏が2009年に作った比較的新しい会社だ。しかし、これまでに通信大手のシンガポール・テレコムやジョンソン・エンド・ジョンソン、広告大手のジェイ・ウォルター・トンプソン、日系企業ではトヨタ自動車やキヤノンなど、そうそうたる企業の仕事に携わってきた。

  • 創業者の2人。Anshul Jain氏(右)とAshok Patro氏(左)

 ThoughtBuzzの強みは大きく2つ。1つは、ソーシャルアナリティクスの肝である「言語対応の精度」、つまりユーザーがソーシャルメディアに投稿したテキストをシステムに漏れなく収集させられること。同社では、それぞれの言葉が持つストラクチャー(構造)をネイティブスピーカーと分析し、システムにそれらを記憶させる。さらにシステムが自ら学習し、精度を高めるよう設計しているという。

 2つめの強みは、収集するテキストを選ぶ切り口の「提案力」。これは少し抽象的な概念だが、たとえばあるファッションブランドがアナリティクスを実施するとき、対象となる言葉はブランド名や商品名、「かっこいい」「かわいい」など一般的な単語だけだろうか。同社ではシンガポールにヘッドウォーター(統括会社)を置きつつ、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピンにも営業・開発の拠点を構えている。各国に配置した現地のスタッフが、その国で生活し、ニュースやブログなどいろいろなメディアに触れ、その国のコンテクスト(文脈)を理解している。だからこそ、クライアント企業の目的に沿った言葉や切り口の選び方を提案できるのだという。

 さらに付け加えると、同社が東南アジアで国境を超えて対応できることは、域内を広くカバーし、一貫したデジタルマーケティング施策を実施したいグローバル企業にとってメリットがあると考えられる。ソーシャルアナリティクス事業は、その国や言葉との結びつきが非常に強い地場ビジネスと言えるだろう。

ソーシャル“アナリティクス”から、ソーシャル“ビジネス”へ

 そんなThoughtBuzzの2人が、ソーシャルアナリティクス業界のトレンドを教えてくれた。それは、「もはやソーシャル“アナリティクス”ではなく、ソーシャル“ビジネス”になりつつある」という、Ashok氏の言葉に凝縮されている。それはどういうことか。分かりやすい事例を2つ紹介してくれた。

 ある自動車メーカーがインド市場を対象に投入していたハイエンドな車種に関するウェブでの評判を調べたところ、外観に対する評価は高い一方で、シートのカバーなど内装に対する評価は低く、さらにその評判を拡散するネガティブなインフルエンサーがいることを突き止めた。そこでこの自動車メーカーは、そのインフルエンサーをはじめとするユーザーが投稿した内容を、次のデザイン仕様変更の際に取り入れたのだ。

 もうひとつは、あるシャンプーを販売する日用品メーカー。女性がソーシャルメディアや「Instagram」などに投稿している写真とそのキャプチャを分析し、女性たちを「生まれた頃からリッチ(お金持ち)」「自分で稼いでリッチになった人」「配偶者と結婚したことでリッチになった人」という3つのカテゴリに分類。それぞれのカテゴリに属する女性たちの、シャンプーとはまったく関係しないような投稿内容から女性のインサイトを分析し、製品開発に活用したという。

 つまり、これまでソーシャルアナリティクスといえば、ユーザーの声を聞いてそれらをプロモーションの効果測定や企画に生かすことが主流であったが、最近は製品や価格、流通チャネルなど、プロモーション以外のマーケティングに関する意思決定にも活用され始めているという。企業としては消費者調査のコストカットにもつながるだろう。

 ThoughtBuzzは2014年に新たなソリューションの提供を開始する予定だという。東南アジアに進出するグローバル企業への同社の貢献度は、これからますます大きくなっていきそうだ。

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