諦めたらそこで試合終了--オムロン vs タニタの知財訴訟から学ぶ、権利の有効・無効

大谷 寛(弁理士)2016年02月26日 07時00分

 「スタートアップのための特許講座」と題していますが、今回は商標の事件を題材に取り上げます。権利の有効・無効の考え方は特許にも通じます。取り上げるのは体脂肪なども測れる“体組成計”を巡るオムロンヘルスケアとタニタの戦いです。

 健康管理への意識の高まりから、体組成計をお持ちの方も増えていますよね。各社から出されている製品はいずれもさまざまなテクノロジを駆使しているわけですが、消費者にはなかなか伝わりにくいもの。そこで、テクノロジをブランド化する商標、テクノロジ・ブランドの出番です。この事件は、オムロンがタニタに「デュアルスキャン」のテクノロジ・ブランドを使用させまいとするものです。

 2016年2月17日、タニタが取得した、「デュアルスキャン」と「Dual Scan」を上下に記載した商標(第5576127号)を無効とする判決が高裁で言い渡されました。

商標

 無効を主張したのは、タニタの競合であるオムロンヘルスケア。特許庁に無効を申し立てて棄却されたものの、さらに高裁に不服を申し立てて逆転勝訴しました。その内容は、タニタの「デュアルスキャン/Dual Scan」はオムロンヘルスケアがすでに保有する商標「DualScan」(第5160747号)と類似するため、登録されるべきでなかったものであり、無効とされるべきであるというもの。

争点は「家庭用」と「医療用」

 オムロンヘルスケアのウェブサイトをみると、家庭用の体重体組成計には「カラダスキャン」(第4938910号等)の商標が使われています。体重に加えて、体脂肪率、内臓脂肪レベル、BMIなどを、ユーザーを自動認識して測定してくれます。

 「DualScan」の方は、ウェブサイトで「医療関係者の方」というタブをクリックして、「商品情報」から「内臓脂肪測定装置」を選ぶと、見つけることができます。こちらは、内臓脂肪の面積をオムロン独自のデュアルスキャンテクノロジで安全・簡単に算出できる装置となっています。手足に装着した電極間に流れる電流と、腹部に装着した電極ベルトに流れる電流の2つの電流経路を用いることから「デュアル」のようです。

 このように、オムロンのテクノロジ・ブランド「DualScan」は一般消費者向けの家庭用ではなく、医療用の商品に使われるものですが、高裁ではこの「家庭用」「医療用」の違いが争点となりました。

 商標Aと商標Bが「類似」しているか否かは一般に、(1)商標Aと商標Bがマークとして外観・観念・称呼などが似ているか否かと、(2)商標Aを用いる商品aと商標Bを用いる商品bが、同一の営業主の提供する製品であると誤解を生じさせる程度に似ているか否かの2点で判断されます。

 オムロンの「DualScan」とタニタの「デュアルスキャン/Dual Scan」がマークとして似ていることについては、互いに認めるところでした。問題となったのは、オムロンの「DualScan」が使用される商品である「体脂肪測定器、体組成計」と、タニタの「デュアルスキャン/Dual Scan」が使用される商品である「脂肪計付き体重計、体組成計付き体重計、体重計」が似ているか否かという点です。

 特許庁では、オムロンの「体脂肪測定器、体組成計」は医療用であり、タニタの「脂肪計付き体重計、体組成計付き体重計、体重計」は家庭用であるから、これらは似ていないと判断されました。ところが裁判所はそうではないと言ったわけです。

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