事業のオープン化がモバイル業界に新風を巻き起こす

 モバイル業界のキーパーソンが一堂に会したイベント「モバイル・ビジネス・サミット 2007」では、アイピーモバイル、イー・モバイル、ウィルコムの通信事業者3社、および携帯電話の技術プラットフォームを提供するクアルコムジャパンの各代表者が集まり、「モバイルビジネスの未来展望図」と題してパネルディスカッションを行った。

 既存の携帯電話事業者3社に戦いを挑むアイピーモバイル、イー・モバイル、ウィルコムが語ったのは、多様化する携帯電話業界において自社の強みをどのように活かし、他社との差別化を図るか。各社が共通して挙げたのはインフラの強化だ。

「我々は新規参入事業者なので、既存の事業者とは違ったことをして市場を変革していかなければならないが、そのためにはインフラづくりが大前提となる。端末、ビジネスモデルの変革は、その次の段階だ」と語るのは、イー・モバイルの専務執行役員情報システム本部長、小林英夫氏だ。

イー・モバイル小林英夫氏 ソフトバンクとの協業で話題を呼んだモバイルWiMAXについては「住み分けというより、どう組み合わせるかだ」と語るイー・モバイルの小林氏

 イー・モバイルは、2005年11月に総務省から携帯電話事業者免許の交付を受け、2007年3月31日に13年ぶりの新規参入事業者として携帯電話サービスを開始。モバイルブロードバンド事業に特化したサービス展開を基本に、HSDPA方式による下り最大3.6Mbpsの高速通信サービスを月額5980円で提供している。7月からは月額2480円〜6480円の2段階定額制を採用した料金プランを新たに追加することでユーザーの間口を広げ、「EM・ONE」のほか合計4種類のデータ端末を提供していく。2008年春には、音声通話サービスの開始も予定している。

 また、イー・モバイルと同時に携帯電話事業者免許を取得し、現在新規参入への準備を進めている、アイピーモバイル。登壇した取締役の竹内一斉氏は「携帯電話やPHSという大きなマーケットに参入することは、魅力的に映るかもしれない。ただ、我々はベンチャーとしてデータ通信に特化をし、新しいマーケットをつくる。そこにこそ新規参入の意義がある」と述べ、モバイルデータ通信に的を絞ったサービスにより、他社との差別化を図る構えを示した。

 具体的には、TD-CDMAという新しい通信技術を導入し、「MBG(Mobile Broadband Gateway)」と称した持ち運び可能な小型ゲートウェイを製品化する考え。このゲートウェイはアイピーモバイルの無線ネットワークを使ってバックボーンに接続する一方、Bluetoothや無線LANなどの汎用のインターフェースに対応し、デジタルカメラや音楽プレーヤー、ゲーム機などの機器につながる。つまり、どこでも簡単に無線LANスポットやBluetoothスポットが作れるようになるというものだ。アイピーモバイルが携帯端末を作るのではなく、すでに市場にある端末を無線ネットワークにつなぐための機器を提供するという発想だ。

アイピーモバイル竹内一斉氏 アイピーモバイルのサービスエリアについて「データ通信ならではの展開をしていく」と話した竹内氏

 竹内氏は「携帯電話というと、キャリアの仕様に沿った電話端末があるのが一般的だ。しかし、データ通信はゲームや電子書籍などいろいろな使い方があり、携帯電話端末からしか利用できないというのでは利便性が低い。一方、1端末開発するのに100億円かかる今のマーケットの中では、多様な端末を開発するのは難しい。そこで我々は、さまざまなニーズに対して幅広く応えられる仕組みとして、MBGのような新しい考え方のものを提供していきたい」と説明した。

 一方、1995年のPHS事業への参入以降、独自の展開により、携帯電話事業者とは一線を画しながらも業界内の確固たる地位を確立しているウィルコムの企画開発部長、河合浩氏は「モバイルブロードバンドで重要なのは、速度ではなく、キャパシティー(周波数)。PHSは、圧容量が強みだ」と、キャパシティーの大きさを武器にいち早く完全データ定額制を実現したことで、既存のキャリアとは既に差別化が図られていると自信を覗かせた。しかし、今後、料金競争において「単に低価格だけで勝負するのは難しくなるはず。なんらかの付加価値が必要」とし、端末においてはW-SIMなど小型化したモジュールがキーとなる可能性を示唆した

 また、3社が共通して掲げたのは、事業の“オープン化”。「できることには限りがある。既存のキャリアと同じように端末のラインアップを拡充するのは難しいので、そのぶん外の会社がパートナーとして大勢参加してもらえるようにオープンにする。他社がうまくビジネスできるような仕組みを提供する」(イー・モバイル)、「MBGを通してアプリケーションプロバイダーやコンテンツプロバイダーなどが新規参入できる環境づくりをしていく」(アイピーモバイル)、「真のワイヤレスブロードバンドになるためには、オープン化が重要。ネットワークのオープン化だけでなく、端末も含めたオープン化を取り組みながら、既存のサービス事業者との差別化を図る」(ウィルコム)と、各社の意向が語られた。

 また、今回キャリア3社と並んで参加したクアルコムは、モバイルプラットフォームを開発、提供しており、モバイル業界の発展に欠かせない役割を担う。具体的には無線技術の通信方式に関する技術特許を他社にライセンスするほか、半導体を通信機器ベンダーに提供している。アプリケーション環境や端末に求められるCPU能力が向上しているといい、今後の端末プラットフォームを狙う、1GHz CPU(2300MIPS)「SnapDragon」のサンプル出荷を開始したことを明かした。

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