再編進むアジア金融業界への進出を支援--日本IBMの海外戦略

 日本IBMは、ASEANへの進出やビジネス拡充を進める金融業の企業を支援するため、2014年4月に、IBMシンガポール内に「グローバル・ビジネス戦略室」を設置した。地域特有の商習慣や規制などに対応しながら、企業のグローバル戦略を支援するソリューションの提供やシステム構築をするためだという。

 設置からもうすぐ1年が経ついま、現地で見えてきたこれからITが金融業界に果たせる役割について、同室を担当するIBMシンガポール執行役員の鶴田規久氏に聞いた。


IBMシンガポール サービス事業統括 グローバル・ビジネス戦略室担当 執行役員の鶴田規久氏

アジア金融業界で加速する再編、そこに商機あり

――グローバル・ビジネス戦略室設置の経緯は。

 日本はエイジングソサイエティとしてこれから少子高齢化が進み、2050年には人口が1億人を切るといわれています。人口の減少はすなわち、国力の低下、外国に対するマーケットとしての魅力の低下を意味します。一方で、中国の人口は13億人、インドは12億人います。インドには戸籍が登録されていない人もおり、それを含めると中国を超えるとの見方もあります。さらにASEANに目を向ければ、地域全体で6億人。あわせて30億人にも届く巨大なマーケットが、日本のすぐ近くにあるということです。

 中国は、巨大なマーケットですが、政治面や環境面での問題による事業リスクの高まりを受け、ここ数年、ASEANを中心としたビジネス拡大の動きは日本企業で加速しています。そこで切り離せないのは、現地で個々にIT利用を進めるのではなく、企業のグローバル戦略全体を捉えたITシステムの構築や運用です。また、各地域特有の商習慣や規制などを深く理解してITシステムを構築することが強く求められています。そこで日本IBMとしては、ITの観点で企業のグローバル戦略を支援するため、金融業、製造業のお客様向けに今回の戦略室設立に至りました。

――日本の金融業のアジアへの進出状況を教えてください。

 いずれの大手金融機関も以前から進出を果たしていました。これまでは、取引先企業の海外での資金ニーズに応えるために、現地の金融機関と提携してサービスを提供するという、あくまで対日系企業のビジネスが主でした。しかし最近では、非日系企業やアジア各国をリテールのマーケットとしてとらえ、現地の銀行を買収して事業を拡大しようとする動きが出てきました。こうした動きは、従前の自社のみで拡大を目指すオーガニックグロースに対して、ノンオーガニックグロースと呼んでいます。

 特にノンオーガニックグロースを狙いたい国として有望なのがインドネシアです。同国は人口は2.5億人。しかし、成人男性の銀行口座保有率は、日本の5分の1。若い人が非常に多い一方で、口座すら作っていない人が大勢いることに、非常に大きなポテンシャルを感じます。ノンオーガニックグロースが増えている背景について、ある日系金融機関の幹部はこのように話していました。「ローカルでリテールのビジネスを実現させるためには、ルールや文化が異なるから、自社だけで拡大しようとすると50年かかる」。時間をお金で買うアプローチはますます増えていくでしょう。

 地方銀行もアジアへの進出に積極的ですが、メガバンクとはアプローチが異なります。地銀も取引先企業の海外現地での資金ニーズに応えるという点では同じですが、人材や資金力の面から海外支店を数多く構えるのは難しい。ですから、各国に現地駐在員事務所を構えてニーズを掘り起こし、実際の融資は香港や日本から行うというケースがほとんど。今後は、複数の地方銀行で共同で進出していくことになるでしょう。いずれにしても、銀行間でのシステム統合や新組織のシステム開発などの要望が高まり、当社にとっての商機が生まれてくるものと見ています。

――新戦略室が果たす役割は。

 1つは、日系企業の第一のコンタクト先として機能することです。IBMグループでは、各国のオフィスが各国の顧客企業に対応することが基本的なルールになっています。しかし、日系の顧客企業はサービス品質に対する要望のレベルが非常に高いため、現地のスタッフがそれに対応することが現実的に難しい場面もありました。これまでは日本IBMのメンバーが短期間の出張で対応してきましたが、常駐する日本人と現地の優秀なコンサルタントとが協業することで、より高い品質のサービスを提供できると考えています。

 もう1つは、アジアでたくさんの金融機関を支援する中でつかんだ情報を、これから進出しようとする日系の金融機関に提供することです。特に、各国の外資規制や、高度な金融犯罪に対するアンチマネーロンダリングなどの技術、ノンオーガニックグロース時のガバナンス、資金の効率的な活用のためのキャッシュマネジメントシステム、モバイルチャネルなどを活用した先端的な金融サービスなどに関する情報は顧客企業からの需要が高く、新たなシステム開発の提案にもつながっています。

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