日米の倉庫会社に見る、IT化の社会的インパクト - (page 3)

月森 正憲(寺田倉庫)2016年10月26日 08時00分

APIを活用し、マーケティング機能を手に入れる

 寺田倉庫では、2013年にAPIの提供を開始し、2016年にビジネスモデル特許を取得しました。今でこそ事業会社のAPI提供は「Sansan」や「Wantedly」などのITスタートアップを中心に少しずつ広まっていますが、当時はほとんどない状況でした。背景には、倉庫事業者として、大規模な資産(物流施設や作業スタッフ)をほぼ持たない当社が生き残っていくためには“仕組み”で勝負する必要性がありました。それを成し遂げるためにIT活用で変革の旗印を求めていたというビジネス環境があります。

 当初MINIKURAはAPIを提供せず、自社単体でのサービス展開でした。ところが、お客様の細分化したニーズに対応するには、自社だけではカバーできないと判断。各事業者が強みを生かしてお客様にサービス提供できるよう、MINIKURAは物流・倉庫機能のプラットフォームになることを決め、APIで商品管理や保存などの機能を提供し始めました。

 APIの提供を通じて、エンドユーザーのリクエストを直接受ける仕組みを構築できたため、寺田倉庫は必然的に荷主のマーケティングに深く関与・参画できるようになりました。そして、マーケティングとオペレーションを結びつけたことで、倉庫会社としては事業主と共に市場開拓できる、というまれな立場を確立しつつあります。

 現在、女性向けのファッションレンタルの「airCloset」や、モノのキュレーションSNS「Sumally」、アウトドア用品レンタルの「vivit」など計13社の企業にAPIを提供し、合計1500万品を管理するまでに至りました。この数を集めるには自社単体では難しかったと見ています。また、それらの共同事業を通じて、結果的にMINIKURAという事業の強み・弱みが見えたことで、事業アイデアをいくつも得ることができました。

 例えば、9月「minikura TRADE」という新サービスを開始しましたが、なかなか好調です。現在預けているモノでもう取り出さない、誰かに売ってもいい、と思えるモノをオンラインで簡単に販売するというサービスですが、今までの事業展開の中で得た仮説をカタチにした好例です。このように、1社では到達しえない事業の幅と深さをもたらすAPIは、倉庫会社のIT化に、「今の成果」と「未来の事業アイデア」という意味を与えてくれます。

 API以外にも、日本の倉庫・物流領域の新たなIT化事例はあります。資本力のある大企業の自社物流(子会社物流)は除き、サードパーティーとしての事例をご紹介します。

日本の倉庫・物流領域のIT化事例

 オムニチャネル化を実現するWMSでは、靴の通販サイト「ロコンド」や、オムニチャネル支援サービス「Monopos」を展開する「IROYA」が注目株です。「即日出荷、送料無料、21日間返品無料」といった独自サービスを展開するロコンドは、これまで鍛え上げたECと物流ノウハウが業績に貢献しており、そごうやアルペンなどの他事業者に対してもオムニチャネル対応システムを提供し始めています。

 一方、IROYAは、倉庫や物流における工程管理、在庫管理、配送管理からECサイトの運営サポート、店頭のPOSシステム、決済代行まで、商流を一元管理するプラットフォームシステムを提供しています。

 また、冒頭でもすこし触れましたが、「オープンロジ」が、物流をシンプルに機能化し、これまで多くの事業者にとって、とっつきにくかった物流をオープンにする事で、EC運営企業と倉庫会社をつなぐ物流プラットフォームを構築しようとしています。

 最後に、倉庫ロボットでも注目の企業があります。これまで多くの企業で物流改革を手掛けてきた宮田啓友氏が設立した「GROUND」です。最先端の自動搬送倉庫ロボット「Butler」を取扱い、運用する側の倉庫・物流事業者とサービスを展開する側の事業者をハード・ソフト面で強力的にサポートしています。

 連載2回目は、私がより臨場感を持って話せる倉庫会社を、アナログ産業として選びました。普通に暮らしていると接触のない倉庫会社ですが、彼らがITを活用することで確実に便利なサービスが私たちの生活にやってくることが実感いただけたかと存じます。

 価値観が変わる時代の転換期にいる今、断捨離に代表されるようにモノとの関わり方も変わっていきます。それは倉庫会社に新たなビジネスチャンスとなりますし、私たち寺田倉庫はLogiTechという新しい潮流を、社会に価値還元できるよう取り組んでいきます。

 次回は、倉庫同様に古い不動産業がテーマです。不動産が簡単に貸し借りできるようになり、“不動”ではなくなりつつあります。Airbnbを代表とするシェアリングスペース事業者にフォーカスを当て、不動産のIT化について深堀りしたいと思います。



月森正憲

寺田倉庫株式会社 執行役員/MINIKURA担当

1975年生まれ。98年寺田倉庫に入社。約5年間、物流現場で重貨物の積み下ろしやフォークリフト操作など現場系作業に従事する。その後、営業職を経て企画担当へ。2012年に、顧客自身が預けた荷物をWeb上で管理できるクラウド収納サービス「minikura(ミニクラ)」をリリース。2015年からは、minikuraのシステムを活用しサービス展開するスタートアップ企業4社の社外取締役も務める

物流とITの融合に可能性を感じ、FinTechの次のトレンドとして「LogiTech」を提唱する

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