デジタル変革の処方箋

リアルな日本企業のデジタル変革--そのスピードを加速させる、5つの“魔法” - (page 2)

村澤 典知(インテグレート)2016年12月22日 14時40分

    危機意識を高める取り組み

  1. すべて上手くいっている、というメッセージを発信しない
  2. 見える化によって、できていない点を発見・共有する
  3. 起こってほしくない将来シナリオを想定・共有する
  4. 顧客や競合、最新技術など、多様な外部情報に触れさせる
  5. 難易度の高いビジョンと目標を設定する

(1)すべて上手くいっている、というメッセージを発信しない

 経営者がすべて順調だというメッセージを発信すると、社員はおのずとこのままでいいと感じてしまい、今のやり方を本気で変えていこう、もっと工夫していこうといった意欲は湧かなくなる。経営者は、どんなに上手くいっているときでも100%手放しで賞賛するのではなく、いくつかの課題を見つけ、伝えることを忘れてはいけない。

(2)見える化によって、できていない点を発見・共有する

 課題を見つけるためには、数字を用いて見える化することが有効だ。トヨタ自動車は過去最高の販売台数を記録したときでも、地域別の販売台数を見える化した上で、次のようなメッセージへと繋げた。“世界全体でシェアNo.1をとっても、それぞれの地域でNo.1となり、最も愛される自動車会社にならなければ意味がない”、こういった全社向けの発信によって、慢心しないよう発破をかけていたのである。様々な切り口で見える化すれば、どんな会社でも必ず課題はあるものだ。

(3)起こってほしくない将来シナリオを想定・共有する

 また、危機意識を持たせる上では、現在ではなく、中長期的な将来に目を向け、潜在的な脅威に気づかせることも効力を持つ。たとえ現時点で自動車販売台数がNo.1でも、完全自動運転の世界となったら、車内空間の快適性や楽しさで車が選ばれるようになる、カーシェアリングが普及して自家用車を持たない時代になる、VR(バーチャルリアリティ)が進化して移動そのもののニーズが激減する、といった未来を想定すると、慢心などしていられないはずだ。

(4)顧客や競合、最新技術など、多様な外部情報に触れさせる

 前述の将来シナリオにもつながるが、顧客の新たなニーズや、競合の新たな取り組み、最新技術とその活用に向けた実験的な取り組みなど、地域や業界を問わず、広く目を向けさせ、多様な情報に触れさせることも忘れてはならない。自分たちに足りないこと、しなければならないことに気づかせるきっかけとなる。特に、公的年金の支給開始が65歳になる「逃げ切れない世代」の、40代以下の年齢層には有効な一手となる。

(5)難易度の高いビジョンと目標を設定する

 最後は、難易度の高いビジョンと目標を設定することだ。GEは、従来の製造業でも、ソフトウェア企業でもなく、「デジタル・インダストリアル・カンパニー」になることを掲げている。数値目標としては、2020年までにソフトウェア事業の収益を2015年の約3倍となる150億ドル(約1.8兆円)に伸ばし、ソフトウェア業界の世界トップ10入りを果たすことを目指している。ビジョンだけでも数字だけでも、健全な危機意識は生まれない。両輪が上手く噛み合った上で、本当に届くかどうか分からないくらいのストレッチの限界近くに、目標をいかにセットできるかということが経営層にとって非常に重要だ。


 デジタル変革は、業界や地域などその企業の置かれている環境によって進展の差はあるものの、遅かれ早かれ、どの企業も間違いなく直面する重要な課題だ。バズワードや掛け声で終わってしまった、気づいたら手遅れだったという事態を避けるために、経営層を中心に早くから健全な危機意識を醸成させることが求められる。

 今回でこのコラムは最終回を迎える。またお目にかかる暁には、好事例として紹介できる取り組みが増えていることを祈る。


村澤典知

戦略コンサルタント。インテグレート執行役員。
一橋大学経済学部卒。トヨタ自動車、博報堂コンサルティング、A.T.カーニーを経て現職。国内大手企業を中心に、成長戦略の策定、新規事業開発、新商品/サービス開発、デジタル変革、マーケティング組織再編等、10年間で約100に及ぶプロジェクトに従事。「カスタマーセントリック思考」、「最新マーケティングの教科書2016」等、執筆多数。

株式会社インテグレート

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