夏野氏、久夛良木氏、三木谷氏が語る過去最大の失敗--“失敗力のススメ”

 新経済連盟主催で12月19日に行われた「失敗力カンファレンス」。イベントの最後を締めくくる4つ目のセッションでは、同連盟の代表理事を務める、楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏、元ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の代表取締役社長をはじめ、“プレイステーションの生みの親”としてソニーグループの要職を歴任した、現サイバーアイ・エンタテインメント代表取締役社長の久夛良木健氏、“iモードの仕掛け人”として知られる元NTTドコモ執行役員で、現慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏の3人が登壇した。

「スマートミステイクのすすめ」と題し、過去の失敗を振り返りながら本音を語った
「スマートミステイクのすすめ」と題し、過去の失敗を振り返りながら本音を語った

 元祖・IT業界の風雲児と呼ばれたトップリーダーたちが、「スマートミステイクのすすめ」と題して、経済界を賑わした大企業や組織の中で経験した過去の失敗を振り返りながら本音を語った。

 モデレーターを務めた一橋大学イノベーション研究センター教授でプレトリア大学GIBS日本研究センター所長の米倉誠一郎氏に、過去の最大の失敗について問われた3人はそれぞれ次のように答えた。

 夛良木氏は「自ら起ち上げたSCEがソニーの子会社として吸収されてしまったこと。資本の論理を数年後に企業が味わう構造でプレイステーションをスタートしてしまったのが大失敗だった」と振り返った。

米倉誠一郎氏
米倉誠一郎氏

 三木谷氏にとっての大失敗は、自ら「あれで1000億円以上の損失を出してしまった。反省している」と話す、2005年に端を発したTBSの買収騒動だ。「自分の中でメディアが変わらなくちゃいけないという社会的なミッションや自分なりの正義感があり、そのために楽天をやっているという思いがあった。事業的にもシナジーがあると感じていたが、なかなかメディア業界の人々の理解が得られれず、まさかあれほどまでに抵抗されるとは思っていなかったのが誤算。もう少し早く辞めていれば、裾野がそこまで広がることはなかったが、自分の正義感にかなり固執してしまった」と反省の弁を述べた。

 夏野氏は「長くドコモに居過ぎた。ドコモを辞める時に当時の戦犯20人ぐらいを道連れにできなかった」と皮肉まじりに自身の失敗を語る。また、「ドコモを辞めたのはiPhoneが出るちょうど1カ月前。あれを見たときにこれは勝てないと即座に思った。辞めて翌日からiPhoneの伝道師になった。(議論では)iモードのOSをAndroidにすべきだと主張していた()」と自身が抱えていたジレンマと、自ら起ち上げた事業を見切りをつけた際の思いを明かした。

 一方、大企業で数々の失敗と苦難に直面し、それを乗り越えてきた日本を代表する3人の起業家が考える“失敗力”に共通しているのは、“チャレンジ精神”と“再起にかける能力”だ。

 「昔のソニーにはやろうと思ったらやるという“やんちゃ”な気運があった。だからおそろしい数の失敗がある。でもその中にキラッと光るものが1つ、2つあるという会社だった。でも事業が成功していきなり1兆円などを調達するようになると、周りでいろんなことを言う人が増えて、それが難しくなった」(久夛良木氏)

 「失敗というよりは、“なんとかする能力”が非常に大事。失敗する前に、周りに何と言われようがギリギリでなんとかできるという力」(夏野氏)

三木谷浩史氏
三木谷浩史氏

 「失敗力とは、失敗を恐れない力。失敗というのはほとんどの場合、後から振り返ると大したものではない。だから、やってみてダメだったら止めればいいというぐらいのスタンスでいるのが“スマートミステイク”だと思う。日本人は特になんとなくの失敗を恐れ過ぎる傾向があり、時には社運をかけて勝負に出ることが必要。ここ一番の時にリスクを取らなかったがために、ソニーもドコモも今こういう状態になってしまったのではないか」(三木谷氏)

 また、個人としての失敗力はもちろんだが、“組織”としての失敗力が重要という意見も相次いだ。モデレーターを務める米倉氏が例として挙げたのがソニーとトヨタの比較だ。

 「ソニーというのはキックオフミーティングをすごくやる会社。これに対称的なのがトヨタ。トヨタはクロージングミーティングを結構やると聞く。これは組織の資産として残るので組織の失敗力にとっては極めて重要。フタを閉めて、次に行くというのではなく、失敗を個人としてだけではく組織のものとして共有していくことが大事」(米倉氏)

夏野剛氏
夏野剛氏

 これに対して日本の組織経営者のあり方の問題点を説いたのが夏野氏だ。「構造的に失敗を蓄積して失敗力をものにできる組織であること。一番いけないのは何もしていないから失敗もしないということ。サラリーマン経営者の多くが現行維持に努めてしまう。しかし経営者も失敗をしたら失敗を認めて、一度降格させたりモビリティーを高めたりするべき。ただし、もう1度チャンスを与えるというのが必要」(夏野氏)

 三木谷氏も「既存の企業、産業界の力は非常に強くて株式の持ち合いを禁止しようと自分も提案しているが、なかなか日本の大きな会社は変わらない。だから新しい人がチャレンジすることで個から変わるしかない」と提言。続けて久夛良木も「今の最大の問題は、失敗してこれをやってはいけない、あれをやってはいけないとすくんでしまって自主規制してしまっているところ。自分たちがチャレンジすることをだんだん忘れている」と日本の組織における現在の風潮に対する懸念を語った。

※【お詫びと訂正】

文中の記載に誤りがありましたので訂正いたしました。公開当初「iモードを起ち上げた時、OSはAndroidにすべきだと主張していた」としておりましたが、時期については明言されておりませんでした。ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫びいたします。

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