この点では色々な議論があり、詳細は拙著「著作権の世紀」でご紹介しました。たとえば、かつて日本発の「超流通」という提案が話題を集めました。これは1983年に筑波大学の森亮一教授が提唱した大変先駆的な概念で、ラフに示せば、(1)DRMなどの技術でコピー流通を止めるのはやめ、自由に流通させる。(2)その代り、料金・どこまでの二次創作を許すかなどの使用条件は提供者が自由に指定できる。(3)ソフトウェアなどをユーザーが使用した場合、自動的に使用が認識され、アクセス料が課金されて権利者に渡る、というものです。
たとえば1回電子書籍を読めば50円、という形です。レンタルCDやレンタルコミックである意味実現されていることを、より洗練された形で広げようとした発想とも言えるでしょう。
……すごいですね。これだけ先進的なアイディアが30年前に生まれていたとは驚きです。インターネットどころか「マルチメディア」の時代です。WindowsはまだなくてMS-DOSとかで、5インチフロッピーは文庫本より大きいのに「ミニ」と呼ばれていた時代に、そんなことを考えた日本人がいたのですね。さすがに早過ぎて、この時にはそのまま現実化はしなかったアイディアでしたが、今、世界は確実にこの方向を指向しています。
つまり、何らかの法制度や仕組みによって、流通は出来る限り自由にしてユーザーが作品にアクセスできるようにし、代わりに創作者への還元をはかる発想です。その際のキーワードは、「オプトアウト」という概念です。これは原則としてすべての作品を流通のシステムに乗せて良いことにし、権利者は申し出れば自分の作品を対象からはずせるようにする仕組みを指します。
従来の著作権の考え方(=まず許可を得てそれから利用できる)とは逆で、「デジタル化時代の鍵を握るのはオプトアウトだ」と言われます。その実現を支えるのは、無数にある著作物の権利者が搭載された「権利情報のデータベース」がしっかり整備されていること、そして人々がアクセスした際にスムーズに課金される仕組みづくりでしょう。
これ自体、実現にはまだ課題も多いですし、「いつどんな作品を読んだか把握される社会は危ない」という指摘もあります。正解は一つではないでしょう。たとえば第13回で話した権利の集中管理にもヒントがありますし、第14回で話したパブリックライセンスにも示唆はあります。
どうか、「デジタルで作品流通は自由になった。であれば、そんな未来の著作権もおもしろいかもしれない」と想像する心を大事にしてください。情報化社会の鍵を握る著作権は、上から与えられて無批判に従うだけのルールではありません。私たち自身が、次世代の姿を構想していくべきルールです。
ただしそれは、ルールを自ら引き受けようという責任を伴うものです。
情報社会とそれを取り巻くルールは今、大きな変動期を迎えています。次の時代の著作権を考えること。それは、曲がり角の先の未来を創造すること、そのものです。
(終了)
20回の連載におつきあい頂き、本当にありがとうございました。この連載は、加筆修正のうえ、2015年1月初旬にちくまプリマ―新書から刊行される予定です。書店で見かけたら、手に取って頂ければうれしいです。
【第1回】著作物って何?--文章・映像・音楽・写真…まずイメージをつかもう1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。
著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全5巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。9月17日に新著「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)発行
専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。
国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku
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