Web 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル(後編) - (page 5)

7. リッチなユーザー経験

 Pei WeiのViolaブラウザは、早くも1992年にはウェブを利用して、「アプレット」やその他の動的なコンテンツをブラウザに表示していた。1995年には、こうしたアプレットを配信する手段としてJavaが登場した。さらに、クライアントサイドのプログラミングとリッチなユーザー経験を実現するための軽量な方法として、まずはJavaScript、それに続いてDHTMLが登場した。Macromediaは数年前、Flashがマルチメディアコンテンツだけでなく、GUIスタイルのアプリケーション経験も提供できることをアピールするために、「リッチインターネットアプリケーション」という言葉を作り出した(この言葉はオープンソースのFlashクライアントの開発元であり、Macromediaと競合関係にあるLaszlo Systemsも利用している)。

 しかし、ウェブ上でフルスケールのアプリケーションを提供できるという考えが広く受け入れられるようになるまでには、GoogleのGmailと、それに続くGoogle Mapsの登場を待たなければならなかった。両者はウェブベースのアプリケーションだが、リッチなユーザーインターフェースと、PCに匹敵する双方向性を備えている。ウェブデザイン会社Adaptive PathのJesse James Garretは、後に大きな影響力を持つことになるエッセイの中で、これらのアプリケーションを開発するためにGoogleが利用した技術を「AJAX」と命名した。Garrettはこう書いている:

 「Ajaxはひとつの技術ではなく、複数の優れた技術を、新しい強力な方法で組み合わせたものだ。Ajaxには次のようなものが含まれる。

  • XHTMLとCSSを利用した、 標準に準拠したプレゼンテーション
  • Document Object Modelを利用した動的な表示とインタラクション
  • XMLとXSLTを利用したデータ交換とデータ操作
  • XMLHttpRequestを利用した非同期のデータ検索
  • そのすべてを統合するJavaScript」

 AJAXは数々のWeb 2.0アプリケーション、たとえばFlickr(現在はYahoo!グループの一部)、37signalsのBasecampとBackpack、そしてGmail、OrkutといったGoogleアプリケーションでも重要な役割を果たしている。今、ユーザーインターフェースの分野では未曾有の革新が始まりつつある。ウェブ開発者はついに、ローカルのPCアプリケーションと同等の機能を備えたリッチなウェブアプリケーションを開発できるようになるだろう。

 興味深いことに、現在開発が進められている機能の多くは、何年も前からアイディアとしては存在していた。今ようやく実現しつつあるこれらの機能を、MicrosoftとNetscapeは1990年代末の時点ですでに構想していた。しかし、両社は標準をめぐって対立していたため、ブラウザを超えたアプリケーションを開発することは難しかった。Microsoftがブラウザ戦争に決定的な勝利をおさめ、ブラウザのデファクトスタンダードが1つに絞られたことによって初めて、この種のアプリケーションが登場する余地が生まれたのである。 Firefox の登場によって、ブラウザ市場にはふたたび競争がもたらされたが、少なくとも現時点では、1990年代に進歩の足かせとなったような、ウェブ標準をめぐる破壊的な競争は起きていない。

 今後数年で、多くのウェブアプリケーションが登場するだろう。それは誰も見たことのないアプリケーションであり、PCアプリケーションに匹敵するリッチな機能をウェブ上で実現するものだ。歴史をひもとくと、プラットフォームの変化は常に、プラットフォームを支配するアプリケーションの交代劇をもたらしてきた。

 電子メールの分野では、すでに「Gmail」が興味深い革新をもたらしている。Gmailはウェブの強み(どこからでもアクセスできること、データベースとの連携、検索機能など)とユーザーインターフェースを組み合わせることで、PCと同等のユーザビリティを実現している。一方、PCベースのメールクライアントは、IMやプレゼンス機能を取り込むことによって、別の方面からユーザビリティの向上に取り組んでいる。Eメール、IM、そして携帯電話の利点を備え、VoIPを利用して、ウェブアプリケーションの豊富な機能にさらに音声機能を搭載した、統合コミュニケーションクライアントはいつ登場するのだろうか。開発競争はすでに始まっている。

 Web 2.0はアドレス帳のあり方も変えようとしている。Web 2.0スタイルのアドレス帳は、PCまたは電話に保存されているローカルのアドレス帳を、ユーザーが意識的にシステムに記憶させた連絡先情報の単なるキャッシュとして扱う。これに対して、ウェブと同期を取るアドレス帳、つまりGmailスタイルのアドレス帳は、送受信されたすべてのメッセージ、すべてのメールアドレス、利用されたすべての電話番号を記憶し、ローカルキャッシュに答えが見つからない場合は、ソーシャルネットワーキングの手法を使って、その中から代替となる選択肢を探し出す。そこにも答えが見つからない場合は、ソーシャルネットワーク全体を検索する。

 Web 2.0のワードプロセッサには、通常の文書編集機能だけでなく、wikiスタイルの協調的な編集機能や、PC用ワードプロセッサと同等のリッチなフォーマット機能も搭載されるだろう。 「Writely」はこうしたアプリケーションのよい例だが、まだ広範に採用されるには至っていない。

 Web 2.0革命の洗礼を受けるのはPCアプリケーションだけではない。Salesforce.comはCRMのようなエンタープライズ規模のアプリケーションでも、ウェブを利用して、ソフトウェアをサービスとして提供できることを証明している。

 新規参入企業が競争優位を獲得するためには、Web 2.0の可能性を十分に活かすことが鍵になる。Web 2.0時代には、ユーザーから学び、参加のアーキテクチャを使って、ソフトウェアインターフェースだけでなく、共有データの充実度の面でも、競合他社を凌駕するようなアプリケーションを構築することのできる企業が成功を収めることになるだろう。

オライリー・ジャパン

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