大学発のベンチャーとVCが生み出す産学連携のダイナミズム - (page 3)

永井美智子(編集部)、田中誠2007年02月15日 15時52分

勝屋:おふたりとも東大のご出身ですが、なぜこの世界に飛び込まれたんですか。郷治さんは東大卒業後、通産省に入省されて、その後VCに入られたわけですよね。

郷治:通産省ではベンチャーファンドを作るための法的なフレームワークを描くという仕事をしていました。投資事業有限責任組合法(ファンド法)というものなんですが、その法律の第1条からずっと原案を書いて、可決・成立させる仕事をしていたんです。ですからその過程で当然VCの方とも知り合いますよね。一時期、勉強のためにジャフコに出向していたこともありましたし。そこでVCに興味を持ちましたし、自分が書いた法律で今の日本のベンチャーファンドのほとんどができているので、いつかその世界に行ってみたいという思いも生まれました。

 その後、スタンフォード大学に2年間留学する機会があったんですが、起業家が授業にスピーカーとして来たり、学生たちが街のバーで当たり前のように起業の話をしたりする文化に出会って、すごくいいなと思ったんです。Googleのようにスタンフォードの学生が起業して、VCがついて成功させるという土壌がそこにはあったんですね。それで日本に帰ってきたところ、東大が産学連携を狙ったVCを作るという話を聞いて、「自分がやらなきゃ誰がやるんだ」と思い、役所を辞めて創業メンバーに加わったんです。

宮澤:僕は大学に入る時から起業するつもりだったんです。高校時代から米国のベンチャー経営者の自叙伝などを読みあさって、やりたいことに全力で打ち込む人生って面白いなと思っていたんですよね。学生が始めた会社のサービスが世界中で使われて、世の中が便利になっていくというプロセスにすごく共感して、「自分も絶対そういう会社を作って若い時から仕事ばっかりしてやろう」と思っていました。

 ただ、米国のベンチャーの人たちは、ハーバードやスタンフォードなどで出会った仲間たちと仕事をしたという話が多いんですよね。やっぱり優秀な人が集まるところは良い出会いも多いんだろうなと思って、日本なら東大なのかなと考え、その日から勉強して札幌から出てきました。ですから僕にしてみると今の状態は本望というか、やりたいことに打ち込めているので本当に幸せな状況ですね。

勝屋:周囲の人の反応はどうでしたか?

宮澤:親は僕のことを分かっていたのでとくに何も言わなかったです。最初から起業すると言って上京していった訳ですから。ただ、近くの他人の方がうるさかったですね。「新卒で大企業に入れるチャンスは一度しかないのに、なぜそれを自ら絶つ必要があるんだ」と。でも、僕としてはそれがチャンスなのかどうかもよくわからなくて、「自分はこっちの方がやりたいんだからやろう」と思いました。一度会社に入って辞める方が僕の性格からすると難しいと思ったので、最初から起業してだめだったらやり直せばいいという感じでしたね。

 あと、就職しようかなと当時付き合ってた今の奥さんにちょっと話した時に、絶対にだめだと否定されたんです。それも大きかったですね。「ずっと起業すると言ってた人がなんで就職活動をするの、うまくいくわけないでしょ」と言われて・・・。確かにそうだなと思って、それ以降は今日まで迷わずに来られました。

勝屋:郷治さんも結婚されてると思いますが、経済産業省を辞められる時に奥様から反対はなかったんですか?

郷治:とくになかったですね。職場の反対はありましたけど。

宮澤:やっぱり近くの他人の方がうるさいんですね(笑)

勝屋:東大では宮澤さんのように、自分の人生の選択肢のひとつとして起業を考えている学生は多いんですか。

郷治:昔に比べれば増えてきているんでしょうが、やっぱりまだまだ少数派だと思います。東大生の大多数のメンタリティは、あくまでも「就職活動」という敷かれたレールの上で、受験戦争と同じようにいかに他の候補者との競争を勝ち抜くか、ということに閉じているんじゃないでしょうか。だからこそ宮澤さんのような方が成功して良い模範を示し、「人生ってそんな単線じゃないよ」というところを示してもらえたらなと思います。

宮澤:そういう意味では(ミクシィ代表取締役社長の)笠原(健治)さんなどが良い模範になっていますよね。

勝屋:ITベンチャー業界で産学連携は進んでいるんですか。バイオなどの分野では成功例は多いと思うんですが。

郷治:今話に出た笠原さんのケースはIT分野での成功例だと思うんですが、全体的には確かに少ないですね。課題としては、まず起業家の養成、教育の問題があります。ITの世界は若い人に活躍してもらうべき分野なので、人材を養成する教育プログラムは重要になると思います。宮澤さんも大学で技術経営論などの講義にもぐり込んで問題意識を高めたそうですが、自分でベンチャー企業を設立したいとか、ベンチャーに飛び込んでいろんな仕事をしたいと思っている人に対して、経営とは何か、会社を作るとはどういうことかなども教えるべきではないかと思います。

 もうひとつは、それをサポートする人材の不足ですね。そういう意味ではITベンチャーを支援するベンチャーキャピタリストも増えていかなければいけないと思います。

IBM Venture Capital Group ベンチャーディベロップメントエグゼクティブ日本担当
勝屋 久

1985年上智大学数学科卒。日本IBM入社。2000年よりIBM Venture Capital Groupの設立メンバー(日本代表)として参画。IBM Venture Capital Groupは、IBM Corporationのグローバルチームでルー・ガースナー(前IBM CEO)のInnovation、Growth戦略の1つでマイノリティ投資はせず、ベンチャーキャピタル様との良好なリレーションシップ構築をするユニークなポジションをとる。総務省「情報フロンティア研究会」構成員、New Industry Leaders Summit(NILS)プランニングメンバー、独立行政法人情報処理推進機構「中小ITベンチャー支援事業」のプロジェクトマネージャー(PM)などを手掛ける。

また、真のビジネスのプロフェッショナル達に会社や組織を超えた繋がりをもつ機会を提供し、IT・コンテンツ産業のイノベーションの促進を目指すとともに、ベンチャー企業を応援するような場や機会を提供する「Venture BEAT Project」のプランニングメンバーを務める。

ブログ:「勝屋久の日々是々

趣味:フラメンコギター、パワーヨガ、Henna(最近はまる)、踊ること(人前で)

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