ベンチャーキャピタルは「もの言う株主」より「働く株主」であれ - (page 3)

永井美智子(編集部)、田中誠2006年11月02日 08時00分

勝屋:石部さんに伺いたいんですが、どういった点を投資の基準にしていますか。

石部:これまで上場企業やベンチャーに投資をしたり、企業の中で新規事業を手がけたりしてきましたが、今はIT関連企業のインキュベーションを中心にしていこうと思っています。

 VCマーケットの中でお金がだぶついているという背景があって、実際にバリエーション(株価評価)の競争が起こっているんです。その中に我々のような、自己資本で投資をしてハンズオン(育成型)で手間暇をかけてやっていく会社が入っていっても勝てないと思うんですよ。

 それよりも、たとえば金融系のベンチャーキャピタルがまだ投資できないような、初期段階のIT関連企業に投資するほうがいいし、実際に非常に動きやすいと感じますね。

勝屋:会社を選ぶ際にはどこを見るんですか。

石部:事業性と人ですね。具体的にどんな人かと聞かれても困るんですが、複数の人が会ってみて、「やっぱりいいよね」と言うかどうかが判断の基準になっています。

勝屋:穐田さんの場合はいかがですか。

穐田氏と石部氏

穐田:最近だと“モノ言う株主”というのが話題になっていましたが、ジャフコ在籍時代からこだわっていたのは、一貫して“働く株主となる”ということです。みんなで働いて、会社の価値を上げて、それをみんなに分配しようというスタンスです。その会社にとって働く株主と成り得るかが基準の1つですね。

 最近、VC含め投資会社が悪く言われていることもあるようですが、株主になって高い立場からモノを言っていることが一因ではないでしょうか。何年もかけて蓄積してきた資金を今の株主だけに配当しろというような意見には違和感を感じます。自分たちも一緒に働いて、10の価値だったものを100にして、増えた分を分配すれば皆ハッピーですよね。

 まず我々がきちんと働けるのか、価値を生む株主なのかが大切だと思います。

勝屋:なるほど。その働く株主という考え方はジャフコ時代から持っていらっしゃるんですね。

穐田:在籍当時、「WHY?ジャフコ」という勉強会をやっていました。ジャフコが必要とされる理由を探るのがテーマです。1つの答えは「資金提供以外の付加価値が大切」ということでした。しかし、ジャフコのように多額の資金を運用する会社では、個々の投資先に深く関与するのは非常に難しい。

 それでジャフコを出てアイシーピーを設立しました。僕自身、石部さんを筆頭とするジャフコの第一投資本部の方々から学んだことを実践したいと考えたからです。結果としては当時組成したVCファンドの中でトップクラスの運用実績を上げることができました。

石部:ジャフコではVCの仕組みを学べただけでなく、いろんな人に出会えました。そこはすごく感謝しています。今でもジャフコにいる人にいろいろ教えてもらえますし。

勝屋:働く株主、というキーワードでもう1つお伺いしたいんですが、お2人とも実際に会社の代表を務めた経験をお持ちですよね。代表に就くことに踏み切るのはどういうときですか。

穐田:代表になるときは自然の流れでしたね。僕の場合は前の経営者が退きたいという意向があったので引き継いだという感じです。他の方に経営を委ねるくらいなら僕がやろうと。ですから踏み切るというより、そういう環境になってしまったと言った方がいいかもしれません。もちろん、いつ社長になってもいいような準備は常にしていましたけどね。

勝屋:逆に代表の座から降りるのはどういうときになるのでしょう。

穐田:これは僕の個人的な意見で1つの仮説ですが、民主的な組織のトップはあまり長くやるべきではないと思っています。権力は腐敗するとも言いますし。日本の総理大臣も米国の大統領も任期は長くて4〜5年なので、僕にとってもそれくらいが最長ですね。

 もちろん、ケースによるとは思います。カカクコムの場合、消費者に支えられてこそ成り立つサービスなので、現場に権限を委ねる事が大切です。社長が決めるのを待っていてはスピードが遅くなりますし、お客様に迷惑がかかり、現場のモチベーションが下がります。消費者が一番偉くて、次に偉いのは消費者に接している社員です。そこに権限を委ねていかないとうまく機能しないと思います。権限委譲を進めるためには上司から退いていく事が最も効率が良い。

石部:僕も今、デザインエクスチェンジの代表になっているのはそういう状況になったからなので、就任に関しては同じですね。就任後、およそ2年で結果が出せなければダメだと思うんですよね(笑)。ただ、設定した事業目標が早く達成できれば前倒しで次の経営者にバトンを渡していきたいとは考えています。

IBM Venture Capital Group ベンチャーディベロップメントエグゼクティブ日本担当
勝屋 久

1985年上智大学数学科卒。日本IBM入社。1999年ITベンチャー開拓チーム(ネットジェン)のリーダー、2000年よりIBM Venture Capital Groupの設立メンバー(日本代表)として参画。IBM Venture Capital Groupは、IBM Corporationのグローバルチームでルー・ガースナー(前IBM CEO)のInnovation,Growth戦略の1つでマイノリティ投資はせず、ベンチャーキャピタル様との良好なリレーションシップ構築をするユニークなポジションをとる。7年間で約1800社のベンチャー経営者、約700名のベンチャーキャピタル、ベンチャー支援者の方々と接した。Venture BEAT Project企画メンバー、総務省「情報フロンティア研究会」構成員、ニューインダストリーリーダーズサミット(NILS)企画メンバー、大手IT企業コーポレートベンチャーキャピタルコミュニティ(VBA)企画運営、経済産業省・総務省等のイベントにおけるパネリスト、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の中小ITベンチャー支援事業プロジェクトマネージャー、大学・研究機関などで講演、審査委員などを手掛ける。ベンチャー企業−ベンチャーキャピタル−事業会社の連携=“Triple Win”を信条に日々可能な限り多くのベンチャー業界の方と接し、人と人との繋がりを大切に活動を行っている。

また、真のビジネスのプロフェッショナル達に会社や組織を超えた繋がりをもつ 機会を提供し、IT・コンテンツ産業のイノベーションの促進を目指すとともに、 ベンチャー企業を応援するような場や機会を提供する「Venture BEAT Project」 のプランニングメンバーを務める。

趣味:フラメンコギター、パワーヨガ、Henna(最近はまる)、踊ること(人前で)

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