グーグル「740億ドルテレビ広告市場征服」の野望 - (page 2)

坂和敏(編集部)2006年08月22日 23時12分

 ここで秀逸なのは、ユーザーが観ているテレビ番組(=映像)を特定するのに音声を使う、というある種の発想の転換だろう。「映像を記録・解析しようとするとTVチューナーカードやカメラなどの道具立てが大変で、ローカルマシン(=クライアントPC)の計算負荷も相当なものになってしまう。それに比べて、マイクロフォンならいまのPCには内蔵されていたり簡単に取り付けられるし、処理するデータ量もたいしたことはない」といった主旨の説明が、この論文には書かれている。そして、これ(音声)なら動画の出所が、地上波、衛星波、ケーブル、ネットのいづれであっても原則的に対応できる(ただし、DBにあらかじめデータのない初出の番組の場合はどうするのだろうか?)。

 さて、この仕組みを使って実現されるパーソナライズされた、インタラクティブかつソーシャルなテレビとは以下の4つの要素を含むものとなる。

  • 「パーソナライズド・インフォメーション・レイヤー(Personalized Information Layer)」:視聴中の番組に付帯する情報を表示する。PC(ブラウザ)上に表示される。応用例としては、例えばTom Cruiseが登場するニュース番組を観ているユーザーのPCに、その時Tomが身につけている衣服やアクセサリがどこのブランドのものかなどを知らせるというもの(その先にはグーグルお得意の入札式広告販売がある)などが挙げられている。
  • 「アドホックな視聴者コミュニティ(Ad-hoc Peer Communities)」:同じテレビ番組を観ているネットユーザーがチャットで意見や感想を伝えあうといった行動はすでに見られるが、このアドホックなコミュニティは、その延長線上にあるものと思われる。視聴者の反応はチャットや掲示板、wiki、ビデオリンクなどの手段を介してやりとりされ、他の視聴者と共有される。ひとつ興味深いのは、ユーザーが頻繁にチャネルを変えても、システム側が自動的にそれを検知し、番組に付帯する視聴者のコミュニティまで変更されるようになるとの点だろう。また、番組の再放送を仮定して、以前の放映時にやりとりされた会話(?)をレイヤーに記録しておき、再放送時に表示させるといった用途にも触れられている。
  • 「リアルタイムの人気度集計(Real-Time Popularity Ratings)」:文字通り、ユーザーに番組の人気度をリアルタイムで伝えるもの。一般的なもの以外にも、たとえば自分のソーシャルネットワークに含まれるメンバー間での人気度や、年齢/性別などについて似通った属性を持つ人々の間での人気度なども示せる。同時に、この仕組みを利用することで、広告主やコンテンツ提供者側では、視聴率が悪化した場合などに、臨機応変に内容や広告を変えられるようにもなる。そのため、あらかじめ複数のテレビCMを用意しておき、視聴者の反応を見ながら実際に放映するものを決定する、といった可能性も考えられる。
  • 「ビデオ・ブックマーク(Video "Bookmark")」:テレビ番組の特定の部分にブックマークを付加しておき、後で見つけやすくしたり、友人と共有できるようにするというもの。このブックマークした部分を集めて「自分だけのビデオライブラリー」がつくれる。このライブラリーに含まれる動画は、ウェブベースのストリーミング放送で、オンディマンドで視聴できるようになる。

 かなり冗長な説明になってしまったが、この論文が指し示す可能性の片りんは何とか伝わったかと思う。さらに、この論文の後半では、このシステムを実現するための技術インフラの説明や実験結果の評価が述べられている。そして、重要と思われる箇所については、数式などを交えながら、これが実現可能である論拠が示されている。

 「テレビCM崩壊」といった題名の書物が世間をにぎわすなかで、このGoogle研究者らの研究論文が持つ意味について、みなさんのお考えを伺いたい。また、繰り返しになるが、この関連の技術に詳しい方には、遠慮なくご指摘を賜りたいと思う。どうかよろしくお願いします。

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