企業情報が見える経営コクピットで戦略とアクションを結ぶ(1/3)

小林 正宗(月刊ソリューションIT編集部)2004年11月16日 13時00分

 ERPパッケージの導入は一段落した。現在は、蓄積されたデータを活用するフェーズに入ろうとしている。そこで、再び注目が集まってきたのが、経営コクピットだ。ヒト・モノ・カネの動きを可視化し、戦略と各個人のアクションプランをヒモ付けるものだ。これにより、リスク管理や将来予測が可能となる。本稿では、2000年前後の経営コクピットブーム時の失敗原因を洗い出し、システムの効果的な活用法や導入成功のポイントを解説する。

 「ERPの導入により、あらゆるデータを集めたが、これをどう活用するつもりなのか」。ある大手製造業の情報システム企画室の室長は、年初に経営トップに呼ばれて説明を求められた。「正直、冷や汗が出ました。ERP導入の切り口として『集まったデータの有効活用』を提案しましたが、その活用法にまで頭が回っていませんでした」と室長は告白する。

 IDCジャパンの調査によれば、2004年の国内IT投資規模は、2.2%成長の12兆1767億円を見込んでいるという。経済環境が回復の兆しを見せていることに加え、2000年問題の後、抑えられていたIT投資が買い替えのサイクルに入り、上昇基調にあるからだと同社は分析している。

 大企業の多くは、2000年問題を機にERPパッケージを導入。安定稼働させたことで業務プロセスの自動化によるコスト削減は一段落した。ところがここに来て、企業のIT企画部門は新たな課題を突きつけられている。

 アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス(IBCS)とIBMが全世界のCFO(Chief Financial Officer)に実施したアンケートでは、「ERPの導入で業務は省力化されたが、ERPにより蓄積された膨大なデータを活用できていない」との回答が目立ったという。総データの5割しか活用できていないという統計もある。

 これらはごく一部に限った話ではない。近年、「戦略的アウトソーシング」が盛んになり、これまでIT部門が担っていたシステム開発や運用の機能を、情報システム子会社やSIベンダへ移管。IT企画部門は、自社の企業競争力を高めるITの効果的な活用を提案することがミッションとなった。だが、いまだ多くの担当者は、今あるデータの活用といった「経営にインパクトを与えるソリューション」を生み出せず、苦しんでいるのが実情だ。

 こうした背景を受け、昨年末から「経営コクピット」(経営ダッシュボード)が再び注目されてきた。

 経営コクピットがもたらすメリットは大きく3つある。(1)ERP等で蓄積したデータを活用し、販売計画や将来予測、リスク回避等の経営活動に活かせる点、(2)経営層や事業部門長、部門リーダーといった各階層別に異なるデータを表示できる点、(3)何か異常があれば迅速に対応できるよう「リアルタイム経営」を実現する点だ。

 経営コクピットがEIP(Enterprise Information Portal)と異なるのは、経営にインパクトを与え、かつ定量化されたデータを扱う点だ(図1参照)。EIPは企業内にあるすべてのデータを対象とするため、原則的に分析することはない。

図1 EIPと経営コクピットの違い

ユーザーが主体となり経営コクピットブームが再来

ガートナージャパン リサーチ部門アナリスト 堀内秀明氏

 経営コクピットのコンセプトは真新しいものではない。ERPの導入が一段落した2000年にも、一度盛り上がりを見せた。「当時はERPパッケージベンダが中心となって『ERPで収集したデータをBI(Business Intelligence)で使いましょう』とメッセージしていました。いわばベンダドリブンのブームです」とガートナージャパン・リサーチ部門アナリストの堀内秀明氏は分析する。一方今回は、ユーザー企業自身が、「経営状況を可視化し、経営環境の変化を素早く察知したい」というニーズを持つ、ユーザー主導のブームだ。

 ブームの背景には、コンプライアンス(法令遵守)の側面もある。

 経営コクピットは、米国でいち早くブームを迎えている。発端は、2002年に制定された企業改革法(Sarbanes-Oxley Act)だ。エンロンやワールドコムの不正会計事件を契機に成立したこの法律は、企業のCEOやCFO、公認会計士に対し、投資家に開示した情報の正確性を保証させるものだ。万一、問題が発生した場合、数日以内にその原因と対応を報告しなければ、刑事罰の対象となる。ガートナーの堀内氏は「リスクヘッジのツールとして、あるいは不正が起こった場合の原因を検証するツールとして、経営コクピットを活用せざるを得ないようです」と話す。

フィオシス・コンサルティング 伊藤隆史シニアマネージャー

 日本国内で経営コクピットを実践する企業の大半は、外資系企業か海外に拠点を持つグローバル企業だ。経営コクピット構築のコンサルティングを手がけるフィオシス・コンサルティングの伊藤隆史シニアマネージャーは「海外にオペレーション機能を持つ企業は、各拠点で、日々どのような意思決定がなされているのかに関心を持っています。特に、PCメーカーや家電メーカーなど、商品の陳腐化や顧客の流動化が激しい業界で導入が目立ちます」と話す。

経営コクピットが失敗する3つの原因

 経営コクピットに注目が集まる一方、国内での導入例はごくわずかだ。その原因は、成功例の少なさにある。

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