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第11回 起業は失敗しても普通のこと、成功すればすごい!

2003/06/12 10:00
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フーバータワーの上での決心

 起業は厳しくも楽しい。それが私の実感ですが、それをまさに体現しているのがシリコンバレーの起業家風土です。

 世界のIT系起業家の聖地ともいえるシリコンバレーの起業。ただし、アラビアのメッカとちがい、巨大なモスクのかわりにあるのは、Cisco Systems、Apple Computerなどの巨大な本社社屋でしょうか。

 私自身、起業の決意をしたのは、Stanford大学のキャンパスにそびえる地上100mほどのフーバータワーの展望台の上でシリコンバレー全体を見渡した時でした。抜けるようなカリフォルニアの青空の下、眼下に広がるシリコンバレーで多くの野心と夢をもった若者が起業を目指し、あるいはすでに起業して、活気あふれるオフィスの中で切磋琢磨している…。幻想、思いこみに過ぎないとはわかっていても、そんな光景を目にして、「僕もいつかかならず起業するぞ!」と決意したものです。そのときStanford大学の生協で買ったバックパックのリュックがいまも僕の起業家人生の出発点を思い出させてくれる宝物です。

 その後も米国西海岸にいく機会のあるたびに、フーバータワーに登ったり、Hewlett-Packardの誕生したガレージ(カリフォルニア州政府が歴史的モニュメントに制定)や、Stanford大学のキャンパス内の学生の眼ざしを盗み見たりして、その息吹を吸い取ろうとしています。

あっけらかんと明るい起業マインド

 さて、シリコンバレーの起業メンタリティは日本とは相当違います。ひとことでいえば、シリコンバレーは、まさにあの青空のようにあっけらかんと明るく、日本はどこか悲壮感がただよっているのです。米国では、起業家は、もっとも優秀な人たちが挑戦する特権をもつあこがれの職業です。成功すれば賞賛され、もちろん、富と名声が手にはいる可能性があります。また失敗に対する意識がまるで違います。日本では「失敗はゆるされない、失敗したら家も財産も失い、地獄に落ちる。成功まで歯を食いしばって、すべてをがまんして事業最優先でがんばる」という「欲しがりません、勝つまでは」主義です。

 これに対し、シリコンバレーは「自分の起業アイデアに誰か金をだしてくれれば、起業というゲームが楽しめる。しかも成功すれば皆お金持ちになれるし、世の中からもすごい!と賞賛される。しかし当然失敗することもある。確率統計的には失敗のほうが多いのだから、失敗してもありきたりのことが起こっただけ。またの起業チャンスをうかがえばいい」、こんな感じです。あっけらかんと明るいのです。

「失敗しても普通のこと、成功すればすごい!」

 実際の統計数値では、5年後に生存しているベンチャーは20%に過ぎないといわれます。8割は5年以内に消滅するのです。つまり失敗は日常茶飯事、よくある話なのです。要するにシリコンバレーは「成功すればすごい!失敗してもなんとかなる」であるのに対し、日本は「絶対成功しなければならない。失敗は許されない」となります。やや極端に誇張して対比しましたが、これでは日本で優秀な人ほど、びびってしまうのは当然といえます。人間、何事も緊張しすぎると成功しません。またこのような息のつまるような毎日では、とてもじゃないが、「起業は楽しい!」なんていえませんよね。

 日本の起業が悲壮になる最大の理由は、日本ではシードマネーを出してくれるエンジェル等の層がうすいために起業資金が得られず、借金をして創業するためです。借金には担保がつきもの。家などの財産を担保にいれるか、個人保証をつけることを要求されます。つまり、失敗すると家がなくなる、あるいは一生債務を背負って生きなければならないのです。これでは「失敗は絶対できない」となります。

シードマネー調達の困難さを救うエンジェル税制を

 日本の起業環境は以前よりは改善してきましたが、それでもまだ問題はいろいろあります。ずばり申しますと、日本の最大の問題点は「シードマネーの調達の困難さ」にあると思っています。

 優秀な人がどんどん起業家を志せる社会にするなら、社会全体で起業リスクを分散してとらねばなりません。それを一個人に背負わせるのは酷であり、そのような状態が続く限り、めったに起業しようという人はでてこないでしょう。

 国や地方自治体にもそのような創業資金拠出制度はいくらかあります(よくみるとほとんどが個人保証を要求しますが)。しかし、本来は目利きのようなエンジェルが見込んだ起業家の卵に、大ダンナのように資金を出してあげるような世界が理想です。国としては、そのようなエンジェル資金を所得控除、あるいは他の投資利益から控除してくれれば、かなりエンジェル投資は進むと思います。

 改正されたエンジェル税制は、エンジェル投資して損失をだしたら他の投資の利益と相殺できる、というものですが、もう一歩踏み込んで、「出資したその瞬間、他の投資の利益からその利益を控除できる」となればぐっとエンジェル投資は増えるのになあ、と夢想しています。

 もちろん、短期的には税の減収になりますが、次世代企業を生む種をまけば、成功した企業が将来大きな法人税を払ってくれます。国もその辺を考えて、損して得とる、という発想になってくれないでしょうか?

(以下つづく)

「起業家というキャリア」は毎週木曜日の更新予定です。


筆者プロフィール
西川 潔
ネットエイジ 代表取締役社長
KDD、米国コンサルティング会社、AOLジャパン などを経て、98年2月、ネットエイジを草の根的に創業。 インターネットビジネスの企画・開発・運用を通じ、ビジネス インキュベーションおよび、投資業務を手がける。現在までに12のビジネスをおこし、M&Aで4社を売却。また、99年に 日本中を席巻したビットバレー構想の発案者でもあり、常に起業家主導経済の重要性を説く。東京大学教養学部卒

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