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第9回 人生の成功の定義をかえよう

2003/05/29 10:00
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Success is a journey, not a destination.

 起業家文化の先進国である米国では、さまざまな「起業グッズ」が販売されています。そのひとつにプラークというのがあります(Stanford大学の生協でも売っています)。これは起業家としての心構えを掘り込んだ石板で、机の上や棚などにかざって初心を思い出させるのです。そのひとつに「Success is a journey, not a destination」ということばがあり、私は気に入って買ってしまいました。直訳すれば「成功は旅だ、到着点ではない」となりますが、これは、もうすこしわかりやすくいえば、

「自分の人生を自分の意志で舵取りしながら生き抜いていく過程(=旅)、それ自体が成功であって、大金持ちになったとか株式公開したとか、あるいは逆に、倒産したとか、という結果(=到着点)をもって成功・失敗をはかるべきでない」
という意味です。つまり極論すれば、起業して破産に終わっても「成功」というわけです(これは極論ですよ。もちろん)。そういえば、ホイットニー・ヒューストンのヒット曲「The greatest love of all」 にもそんな歌詞がありましたね。「仮に私が成功しようと、あるいは失敗しようと、わたしはわたしの運命を試し、わたしの人生を精一杯生きているのだから、私はそのことを誇りに思うし、誰も私の威厳をうばうことはできない」と。上記のように、「成功」の定義をかえてしまうこと、それが起業家人生へ思い切って飛び込むひとつのジャンピングボードになるのではないでしょうか。

人生航路のオプションとしての「起業」

 起業とは、文字通り、ビジネスをゼロから起こすことです。よほどの大金持ちでもないかぎり、人は食うために職業をもつ必要がありますが、ふつうの日本人の人生航路では、まず20歳前後まで学校にいき、そのあと、どこかの会社(または役所など)に勤める人が大多数です。最近は、あえて自発的にフリーターや契約社員・派遣社員などの特定の企業に所属しない人も増えていますし、学生時代からいきなり起業家になる人もわずかながらいますが、一般的にはまだまだ卒業して、就職という路線が大多数です。おそらく読者の皆さんの9割がたがそうでしょう。

 さて、会社員になったその後はどうなるのでしょう?実はこの先の部分が、1990年以来の低成長時代にはいり、大きく変わってきた、あるいは変わらざるをえなくなってきたのです。すなわち、65歳定年までつとめあげ、あとは関連会社の取締役かなんかで楽なポジションにうつり、そのうち引退、というコースが急速に見込めなくなってきたのです。また、仮にそのようなコースを選べたとしても、あえて、「そんなのつまんない」と思う人が増えています。

 要するに、一度しかない人生をただ安全志向でいけばいいというものではない、もっと熱く燃えたい、というわけです。そのような人にとって「起業」は現実的なオプションです。世論調査によれば、親が子供になってほしい職業のトップは公務員だそうで、中高年の寄らば大樹の陰志向は根強いものがあります。事実、日本に起業意識が弱いのは親の安定志向の影響もあります。また、世間体などを必要以上に気にしてしまうのも日本人の悪いところです。しかし、人間、25歳、30歳にもなれば、誰のものでもない自分の人生を思うように選択して生きればいいのです。

リスク感覚の再定義

 よく、起業家はリスクテイカーといわれます。安定した大企業をやめる場合などはなおさらです。しかし、本当にそうでしょうか?むしろ時代にそぐわなくなった大企業のほうが、柔軟なベンチャーよりよほど危ない、という考えもあります。「そうはいっても少なくとも来年・再来年は大丈夫だ」と思っているあなた、そうしてずるずるいくうちに、起業適齢期は過ぎ去り、しがみつくしかなくなるのですよ。起業する自由を失うリスクを増大させているのですよ。

 またリスクの定義を変えますが、安定してはいるが、意にそまない、充実感のない企業に属しているということは、「死の床について人生を振り返ったとき、自分の人生に納得することができないことを発見して絶望するリスク」をとりつづけているといえないでしょうか?これは、人生究極のリスクかもしれません。起業家人生はそういうリスクを徹底的に回避しているともいえます。この言葉は、実はAmazon.comの創業者の言葉です。ご紹介しておきましょう。

Regret minimizing framework とは?

 Amazon.comの創業者のJeff Bezosは、30歳のとき早くもヘッジファンドのシニアバイスプレジデントというポストについていました。が、そのニューヨークでの羽振りのいい生活をきっぱり捨てて、1995年、ワゴン車に妻と愛犬をのせ、北米大陸を横断し、徒手空拳、西海岸のシアトルでAmazon.comを創業しました。以来10年もたたずして世界中の人が便利に使う時価総額約1兆5000億円の巨大eコマース企業、Amazon.comを確立したのです。また、Forbesによると、個人的にも2900億円程度の資産を築いています。

 余談ですが、私は1999年にシアトルにいってBezosに会ったことがあります。そのときは、この目の前にいるチノパンツに白いシャツの、よく高笑いするおにいさんが、数千億円の資産家とはとても思えなかったです。それほど、質素でラフな印象でした。

 そのBezosがなぜ裕福なニューヨークの生活を捨て、ゼロからAmazon.comをやろうと決意したのかについて、WiredやThe Motley Foolに記事がありました。彼の言葉を簡単にまとめるとこのような感じです。「インターネットが急速な勢いで伸びているのを目の当たりにしたとき、僕は『regret minimization framework』という考え方を自分に信じ込ませたんだ。つまり、自分が80歳くらいになって死の床にあって自分の人生を振り返ったとき、後悔することがもっとも少なくなるように生きようと。投資銀行での業績や期末のボーナス がどうのこうの、とかそんなことは、いまは一喜一憂するけれど、80歳になったら全く覚えているわけないんだ。ところが、もしこのインターネット革命の波に乗れたにもかかわらず、乗らずに80歳を迎えたとしたら、悔やんでも悔やみきれないほど「自分はアホだった」と後悔するに違いないと確信したのさ。そうなったらぜんぜんリスキーなんて思わなくなった。すぐ行動したよ」

 彼の「regret minimization framework」つまり、「後悔極小化思考」も皆さんの起業決意への背中をポンと押してくれるのではないでしょうか。

(以下つづく

「起業家というキャリア」は毎週木曜日の更新予定です。


筆者プロフィール
西川 潔
ネットエイジ 代表取締役社長
KDD、米国コンサルティング会社、AOLジャパン などを経て、98年2月、ネットエイジを草の根的に創業。 インターネットビジネスの企画・開発・運用を通じ、ビジネス インキュベーションおよび、投資業務を手がける。現在までに12のビジネスをおこし、M&Aで4社を売却。また、99年に 日本中を席巻したビットバレー構想の発案者でもあり、常に起業家主導経済の重要性を説く。東京大学教養学部卒

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